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第2話 10月25日 PART.2

「失礼します。予約した印南です」  客としてホテルへ入るのに、「失礼します」というのも変な感じなのだが、印南はホテルに入る。荷物は既に送ってあって、身軽なままホテルのフロントへ向かう。フロントには羊角のようなものを頭から生やした支配人らしき人物がいた。 「これは、これはよくおいでくださいました。印南星龍様」  支配人の壮年の男性は重々しく口を開き、深々と頭を下げる。その様子はまるで洋館の老執事のようで、羊角といい、「羊の執事」だと印南は思った。 「私は総支配人の宋(そう)です。お部屋の方へご案内いたします」  羊の執事こと総支配人の宋自ら、部屋までのエスコートがあり、印南は廊下を歩き始める。  金色の招待状の豪華特典は何も廊下や螺旋階段にある無数にある南瓜のランタンやどこまでも伸びるレッドカーペットではない。滞在中の食事には3つ星とも噂の高いシェフが腕を振るい、その飲食代は全てタダになるというが、これも違うらしい。3つ星と同等のシェフが作る食事が毎食、数種類から選べ、宿泊費まで全てタダ。これも十分凄くて、破格のもてなしだが、それでさえも違うらしい。 それらの特典をプラスし、場合によってはその特典も霞んでしまうような特典。それこそ金色の招待状を持つ者のみが受け取れるものだという。 「それが最高の、癒し……」 「ええ、左様でございます。ああ、そうそう。わたくしとしたことが失念しておりました。こちらはわたくしからでございます」  宋はどこからか、片手で持てる程の、南瓜の形を模したバケツのようなものを取り出して、印南に差し出した。中身は飴のようなものが幾つか入っていて、4才くらいの男の子ならいざ知らず34にもなった男がもらっても然程、喜ぶとは思えなかった。  だが、印南は「ありがとうございます」と受け取った。 「特典は毎夜毎晩、異なるものをご用意しております。もし、その日の特典がお気に召しませんでしたら、そちらをお渡しください。そうすれば、彼らはがっかりするかも知れませんが、そのまま貴方の部屋を後にするでしょう」

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