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第12話 10月30日 PART.2

 リカの控えめなノックに、ロワの派手なノック。深月の軽快なノックに、ケンの鈍いノックと続き、今日のノックは印南には分からなかった。  というのも、 「すまない。ノックはさせていただいたのだが、考え事をしているようだったので、無作法ながら中へ入らせてもらった」  ということで、印南は聞き逃していたからだった。  リカや深月、ケンとは違い、尊大で淀みのない、滑らかな言葉遣い。ロワと比べると、作法にうるさく、やや頭でっかちな印象を受ける青年は黒いスーツとマントを身につけて立っていた。 「すみません。こちらこそ折角来ていただいたのに失礼なことをして」  印南は鷲鼻に、2本の牙を生やしたドラキュラの青年に手を差し、名乗る。すると、ドラキュラの青年は印南に近づくと、やっとといった様子で手を握った。 「私の名前はDでもヴラドでもドラクルの息子でも好きに呼ぶと良い」  と、ドラキュラが署名時に記すと言われているDやそのモデルとなったヴラド3世。ドラキュラの語源となったというドラクルの息子を挙げたので、印南は最初のDに「さん」と敬称をつけて呼ぶことにした。 「えーと、Dさんはもしかして、近視ですか?」  印南が言うと、青年はバツの悪そうに答える。 「あぁ、普段は眼鏡なのでな。レンズも入れはするが、あれとはどうも相性が良くない」  確かに、鏡には映らないとされている魔物が眼鏡というのもおかしな話なのだろう。だが、印南は目の前のドラキュラが眼鏡をかけているのを見たいと思った。  もし、他の魔物がメモで残したように今度があるのなら……だが。 「ふっ、何とも面妖な話だ」 「ダメですか?」 「いや、良かろう。貴公が望むのならそのように契るとしよう」  Dは印南の手の甲を引くと、唇をつけ、ベッドへと促した。

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