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ハロウィンは僕の生まれた町では異端扱いされていたが、都内では思わぬ賑わいを見せていた。各自が仮装を楽しみ、街中を練り歩く。大掛かりなイベントも催され、素直にそれを受け入れている人たちを目の当たりにして、僕の町がいかに遅れていたのかと思わざるを得なかった。
サークル仲間に連れられてスクランブル交差点に行った僕は、都会の多種多様な人の姿に酷くショックを受けた。
「夏樹は頭固いし、暗いからなぁ。たまにはこういう場所で羽目を外すことも大事だぞ」
そういった遠慮のない言葉すら、僕は真に受けずに聞き流せるぐらいには中身が変化していたのかもしれない。それでも人ごみに慣れない僕は、体調を崩して先に帰宅することになった。
「人ごみにもそのうち慣れるさ。それよりも一人で帰れるのか?」
僕の体調を気遣うような仲間の一言が、僕には身に染みるほどに嬉しかった。涙を堪えて頷いた僕は、電車を乗り継いで一人暮らしをしているアパートへと向かう。
僕の住む二階建ての木造アパートは、住宅地の一角にあって夜の十時を過ぎるとすっかり静まり返っていた。ぼんやりとした街灯が照らす道を一人寂しく歩いていく。
アパートの一階奥の部屋に足を向けると、ぼんやりとした人影が僕の部屋の前で佇んでいた。訝しく思って恐る恐る近づくと、その影の主がゆらりと僕の方を向く。
「やぁ、久しぶりだね」
懐かしい声に、僕の心臓が瞬時に跳ね上がる。
「……小野さん、ですか?」
そう言えば一度も名前を呼んだことがないと、今になって気づいた。
「元気そうで何よりだよ」
彼はそう言って、街灯に照らされた白い頬を綻ばせた。
「なんで……ここが……」
「君のお母さんに聞いて来たんだ」
何のためにここまで来たのか、僕にはさっぱり見当がつかなかった。
「寒かったんじゃないんですか? いつからここに?」
「さっき、来たばかりだよ。一度来たんだけど留守だ
ったから、折を見て戻ってきたんだ」
彼は平然とした口調で言ってのける。さすがにここまで来ているのに、追い返すのも気が引けてしまう。それにあんなことがあっても、彼は僕にとっては恩人だ。警戒心がなくなったわけじゃないけれど、僕は部屋のカギを開けると彼を中に入るように促した。
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