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1. オマケノハナシ
Side AKITO
「お疲れ様。」
「お疲れーっ。」
ニヤニヤという表現がぴったりな顔をした弥生と待ち合わせをしたのは、響くんが千裕くんと外食に行くと言っていたある夜のことだった。
お互い恋人が出掛けるなら、と俺たちも外で飲むことにし、用事を済ませてから約束した場所へ向かうと弥生は既に到着していた。
「陣は?」
「んー、ちょっと残業長引くっぽい。後で合流するってさ!」
「ふーん。弥生は手伝わないの?」
「俺は営業専門外!だから無理!」
弥生ともう一人、一緒に飲む予定だった山元陣はあとから合流するということで、俺と弥生は先に店に入ることにした。
俺と弥生のかつては行き付けだったあのバー。
それが響くんと出会ったことで思い出の場所へと変わり、そして今はたまにこうして弥生と飲みに来る場所へと変わっていた。
落ち着いた雰囲気と酒の美味しさはついつい長居してしまう、大人な世界。
そこに陣を呼ぼうと言ったのは、弥生ではなく俺だった。
山元陣、それは取引先の営業マンで響くんが俺と別れていた間に付き合っていた男。
考え方も話し方も『堅い』この男は、営業スマイルがとてつもなく上手く、表情だけで何を考えているか読めない俺の苦手なタイプだった。
そんな男が響くんの恋人になったと知った時、なんでこんな男と?...そう不思議に思ったことは今でも覚えている。
弥生も『ムカつく』『嫌い』を連呼していたはずなのに、ある日突然名前で呼び合うほどに仲が良くなって、陣に懐く弥生にイライラしたのはつい最近のこと。
そんな男をわざわざこのバーへ呼んで一緒に飲もうだなんて考えられなかったけれど、ある出来事から陣に対する考え方が変わり、俺も何だかんだで仲良くなってしまったのだ。
「いらっしゃいませ。」
「こんばんは。あと一人来るから、あっち座っていい?」
「もう一人...ああ!響くんですか?」
「ううん、俺たちの友達。」
「それは珍しい!もちろん大丈夫ですよ。」
俺と弥生をよく知るマスターは、俺たちに『友達』と呼ぶような人が居ないことを知っている。弥生は上っ面だけの関係ならたくさん居たけれど、気に入った店に連れてくるような人は千裕くんしか居ないだろう。だけど酔うと色々面倒な千裕くんを飲み屋には連れてこれないし、俺だって響くん以外の人をここへ連れてきたことはない。
つまり陣は俺と弥生にとって珍しく気を許した相手、ということなのだ。
「へぇー、暁斗と陣は友達だったんだ。」
「...お前もだろ?」
「まぁね。でも本当意外~、まさかお前らが仲良くなるとはなぁ。」
「俺だって不思議だよ。でも話してみたらいい奴だったし?」
「確かにな。俺もまさかあの山元サンとプライベートで関わるとは思わなかった。」
クスクスと笑い出した弥生を他所に注文を済ませた俺は、少し前にあったあの出来事を思い出した。
*****
それは響くんが俺に『陣とエッチした』なんてわざわざ言わなくてもいい報告をしたあの夜のことだった。
付き合っていた時のことなんて、それがどんなことであろうと進んで知りたくない、と思っていた俺にストレートな行為の報告をされ、流石に堪えたあの日、頭を冷やそうと外に出た時に弥生と陣に出会した。
「あれ?暁斗?」
「...弥生...と山元さん...」
「どしたの?顔怖いよ?...まさか喧嘩?」
今会いたくない人間、No.1を目の前にした俺の表情はきっとイラついたものだっただろう。
弥生にはすぐに何かあったとバレて、例の世話焼きによって俺はズルズルと弥生の部屋へと連れ込まれてしまう。
千裕くんは留守らしく、部屋は真っ暗で冷えきっていて、最近千裕くんのご希望で買い直したという新しい大きめのこたつに男三人が足を入れて暖を取る、というなんとも微妙な展開になった時はなんでもいいからここから一刻も早く脱出したいと願った。
だけど弥生はそれを許す訳もなく、俺に執拗に何があったのかを問い詰める。
言わなきゃ帰さない、そんな雰囲気に加えてやけに余裕そうな山元さんとたまに足が当たるのもイラッとして、俺は本人を目の前にし、あの事を言ってしまったのだ。
「響くんが山元さんとセックスしたっていうから、流石に今一緒に居るのがしんどくて外に出た。」
嘘じゃないからハッキリ言ってもいいだろう。
これで満足か?と弥生を見ると、まさかそんな事だったのか!と冷や汗をかいて苦笑いしている。
場の雰囲気は最悪だ。これで俺が帰れば山元さんの世話は弥生行き。さっさと帰ろうと思い立ち上がると、山元さんの口が開いた。
「そのことなんだが...俺は響を抱いてなんかないぞ。」
焦りも何もなく、ただ淡々とそんな事を言う山元さんに俺のイライラは加速する。弥生と千裕くんの部屋だというのにポケットに入れたタバコに火をつける。
換気扇のある場所か喫煙所でしか極力吸わないようにしていたけれど、こうでもしなきゃ怒りを抑えられなかったからだ。
「じ、陣、抱いてないって?」
「ああ、セックスのことだ。」
「え~!?今さらそんな...ちょっと無理のある言い方かと思うなぁ~?」
「本当だ。響がそう思っていたとしても事実は変わらない。だからそれ以外の言葉が無い。」
咄嗟に間に入った弥生の言葉も意味も無く、別れたあとだというのにそんな言い訳されても、と、俺の山元陣へのイライラはもう抑えられない所まで来た。
咥えたタバコにイライラを抑える力なんて無く、どうしようもないことだからこそ行き場の無い怒りが込み上げて、つい手が出そうになたったその時だった。
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