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1. オマケノハナシ②

「これからだって言う時に他の男の名前を呼ぶような奴を、お前達は抱けるのか?」 殴る寸前のところまで振り上げた俺の腕。 それがピタリと止まったのは相変わらずの口調で俺たちに聞いたその言葉のせいだった。 『他の男の名前を呼ぶような奴』 それはきっと響くんのことを指しているのだろうけれど、俺の頭はそれ以上を理解出来ずにいた。 「確かに響を抱こうと思った。キスもしたし身体にだって触れた。それは間違いない。だけどこれからだって時にアイツは何て言ったと思う?」 そこまで言うと、山元陣は思い出し笑いをするかのようにふっと笑みを漏らした。 真面目な顔に似合わない笑顔、それは初めてみた表情だった。 「何度かイカせてたせいで意識が飛びそうだったんだろうな。相手は俺だって言うのに、アイツは俺を見てハッキリ言ったよ。『暁斗さん』って。」 ...嘘だ。そんなこと...。 怒りはいつの間にか収まって、冷静になりつつ心の中に『嬉しい』という感情が広がる。 響くんが、この男との最中に俺を思い出していた? もしそうだとしたら、そんな嬉しいことは無い。 「その時分かった。コイツは...響は貴方を忘れられやしないって。どれだけ俺が大切にしても愛しても、貴方には勝てないって。だから一先ず勘違いでもすればいいと思って痕はしつこいくらいに残して、あとは何も言わずにいた。」 山元陣の言葉はどこにも疑うような所がなかった。 俺をバカにした冗談だとも思えないし、嫌味だとも思えない。 この男が嘘をつく、ということが信じられないからだろう。 それほど真面目な人間だということは仕事で関わり理解していた。 だからこそ山元陣の言葉に俺がホッとしたのは言うまでもない。 「本当...ですか?」 「ああ。」 「じゃあ響くんはずっと...勘違いを?」 「そうだな。まぁ、いずれこうなると思っていたよ。響のことだから罪悪感を感じて貴方とセックス出来ないって泣く日が来るだろうって。」 「......」 「安心しろ。ナカは一度も触れていない。...まぁ俺以外のことは知らんがな。」 響くんは山元陣とシていない。 それがハッキリ分かると、俺の身体の力は抜けて、情けなくその場に座り込んだ。 仕方ないと諦めていたことがこんなにもアッサリ解決するだなんて。 自分のせいで響くんと別れることになったというのに、山元陣は今でも俺たちに助け船を出してくれた。 そう思うと、殴ろうとした自分が小さい人間だと思えてくる。 「...すいません...。それと、ありがとうございます...。」 「何がだ?俺は他の男の名前を呼ぶような奴は抱けない、と言っただけだ。」 「...俺にそのことを教えてくれたじゃないですか...」 「それは別れても響には幸せになって欲しいと思ってるからだ。俺は響に笑っていて欲しいからな。」 ...なんて格好いい男なんだろう。 今までこんなに人をそう思うことなんて一度も無かったのに。 ーーその瞬間から山元陣への気持ちが変わった。 俺と同じように響くんを大切に思い、そして響くんの幸せのためにと身を引いてくれたこの男は、俺の知る限りで最も男らしくて真面目ないい奴。 「ああ、そうだ。貴方に言いたいことがあった。」 「...え?」 「俺は弥生と友達になったらしい。この歳でそんな関係、必要ないと思っていたんだがな。...それでここへもこれから頻繁に訪れることになるだろう。」 「は、はぁ...」 「貴方に会う機会も増えるかもしれない。」 「そ、そう...ですね?」 「そこでだ。俺はどうせなら貴方とも友達になりたいと思っている。差し支えなければ友達という関係になって欲しいし、弥生と同じように名前で呼んでも構わないか?」 それはライバルだと思っていた相手からのいきなりの友情宣言だった。 相変わらずの表情でそう言った山元陣は、やっぱり格好いい。 「...もちろん。」 「それは良かった。じゃあ、これからよろしくな、暁斗。」 ふっと微笑んだ陣は、俺に手を差しのべた。 ...こうして俺に数少ない『友達』が出来たのだ。 まさか、と思う相手だったけれど、話してみると意外にも考え方が似ていて、弥生と俺を足して二で割ったような性格のせいか俺たち三人が仲良くなるのに時間はそうかからなかった。 俺の次の仕事が始まるまで、時間があれば弥生の部屋に集まってする雑談も楽しくて、陣に対する警戒心は全く無くなって。 俺も素を出せるようになり、響くんとのノロケを話すことだって出来るようになった。 「暁斗?どーした?」 「...ちょっとね。」 「また喧嘩?」 「違う違う。陣のこと考えてた。」 「あー、陣にもいい人が見つかればいいなってやつ?」 「んー...ちょっと違うけど。ま、それもそうだよね。陣の運命の人、早く見つかればいいね。」 陣に運命の出会いが訪れたら、その時は俺も応援する。めちゃくちゃ世話焼いて、幸せになれよって言ってやる。 陣が俺と響くんのことを後押ししてくれたように。 オマケノハナシ END

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