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2. 『運命の人』 6
「「陣に彼女!?!?!?」」
こたつに入り暖を取りながら、俺は水沢さんと付き合うことになったことを弥生と暁斗に報告した。
別に言う必要なんて無い、そう思っていたけれど、これから彼女との時間が増えれば二人と会うことが減るかもしれない、と考えて予め伝えておくことにしたのだ。
それに一応弥生の誘いが無ければ彼女に出会うこともなかったし、言わないと言わないで後が面倒だろう。
「お試しで、だがな。」
「ちょ、待て待て待て!連絡先知らなかったんだろ!?いつそうなった!?」
「本屋で偶然。いや、運命だったのか?」
「うーんーめーいー!?暁斗聞いた!?陣が運命だって!!」
「弥生うるさいよ。...えーっと、とりあえずおめでとう。また会えて良かったね?」
「ああ。」
弥生はギャーギャーうるさかったけれど、暁斗はそう言って素直に祝福してくれた。
友達に報告、なんて学生のようなことをする自分は少し恥ずかしかったけれど、『おめでとう』と言われるのは案外嬉しいものだ。
これから集まる時に弥生の恋人との喧嘩話と暁斗の恋人のノロケを聞いて、その後俺の恋人のどんな話をすることになるのか...と考えるとそれも楽しみになる。
やはり少なくなったとしてもこの二人と会う時間は確保しなければ、と思う自分はかなり浮かれていた。
*****
「陣さん!」
「詩織さん、こんにちは」
「お待たせしてすいません...」
「いやいや、大丈夫ですよ。ほら、時間ぴったりだ。」
冬空の下、10時ちょうどに待ち合わせた俺たちは、やはりこの日も休日が重なっていた。
前もって話す訳でも希望休を取る訳でもないのに、こうして休みが合うのはやはり運命なのだろう。
お試しのお付き合いを始めた俺たちは、お互いの名前に『さん』を付け呼び合うようになった。
歳も近いし呼び捨てでも構わない、と言ったけれど、『それは恥ずかしくて出来ない』と顔を真っ赤にして詩織さんが言うのだから仕方ない。
だけど『陣さん』なんて他に呼ぶ人は居なくて、彼女しかそう呼ばない所にどこか特別を感じた俺は満足していた。
「今日は何処に行きますか?」
「今日は水族館がいいです!ニュースでイルカの赤ちゃんが見れるって知ってずっと見たくてっ!」
「じゃあ水族館にしましょう。」
「はいっ!」
最近の詩織さんは大分俺に慣れたようだった。
もう声も小さくないし、顔を真っ赤にする回数だって減った。
笑顔が増えて、自分の希望も言ってくれるようになった。
お互い何も知らない所からのスタートだからこそ、知ることが増えれば近付ける気がするし、一緒に過ごす時間はどんどん楽しくなる。
水族館に着くと詩織さんのテンションは今まで以上に高かった。
動物が好き、とは聞いていたけれど、子供に混ざって水槽に張り付く姿は意外で、『早く早く!』と手を振る詩織さんはいつもと違う弾けるような笑顔を見せる。
だから人気の少ない暗いスペースを見つけた時に、
「キスはお試しでもしていいですか?」
なんて言葉を口にして、真っ赤な顔で頷いた詩織さんの唇にそっと自分の唇を重ねてしまったのだろう。
響とは違う感触、ふわりと香った甘い匂い。
これが俺の『運命の人』で、きっと詩織さんに恋に落ちるのだろう感じた瞬間だった。
この水族館デートを境に俺たちの仲は一層深くなる。
と言ってもセックスまで進んだ、という意味では無い。
詩織さんからの誘いが増え、デートの回数も頻繁になり、その時手を繋いだり帰り際にキスをしたり、ということだ。
お試しであっても恋人らしい付き合いになったということだろう。
詩織さんとの距離はどんどん縮まり、徐々に敬語も無くなって気軽に話せるようになった。
ここまで来ると『お試しなんかじゃなくたって』、そう思う程に詩織さんのことを考えているのに、自分からは中々それを言い出せない。
女々しいかもしれないけれど、『断られたらどうしよう』と不安があったりまだハッキリと『好き』だと言い切れない自分が居たからだ。
言い切れないくせにキスをするだなんて、と少しの罪悪感はあったけれど、それはまだ出会ってそう月日が経っていないせいで、
『きっと』『いつか』『そのうち』
...時間が経てば詩織さんを好きになる、そうハッキリとこの時は思っていた。
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