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2. 『運命の人』 7
『今夜、会えますか?』
『次のデートはここに行きましょう』
『陣さんと居ると楽しい』
そんな詩織さんからのメッセージに窮屈さを感じ出したのは、お試しで付き合い始めて1ヶ月を迎える頃だった。
デートの回数は増えて、会わない日が少なくなり、先週のバレンタインには詩織さんに手作りのチョコレートを貰って、俺はどんどん詩織さんに惹かれていく、そう思っていたはずだったのに...。
(...何故だ。何故好きになれない...?)
俺は詩織さんが運命の人だと思った。
だからすぐに詩織さんを好きになる、そう思っていたはずなのに、『好き』だという気持ちがどんなものだったか分からなくなる程に詩織さんに対してその感情が持てなくなっていたのだ。
デートも会話も、詩織さんと過ごす時間は楽しい。
なのに会えば会うほど自分が抱くはずだった恋愛感情から遠退いてしまう。
好きになろうとすればするほどに『好きになれない』と思ってしまう自分が理解出来ず、そのせいか詩織さんのメッセージに返事をする時間は遅くなり、理由を付けてデートを断るなんてこともしてしまう。
メッセージの受信を知らせるバイブ音が聞こえる度に俺の口からため息が漏れていることだって自覚していた。
おかしい。
こんなはずじゃなかった。
俺は詩織さんと付き合いたい、好きになると思っていたのに、どうして今の関係がこんなにも『苦しい』と思ってしまうのだろう。
運命の人だと感じたはずなのに、なんで...。
考えても考えてもその答えが出ることはなく、日に日に詩織さんのメッセージへの返事は減り、ついに丸一日届いたメッセージを確認すらしなかった日、俺の気持ちはどん底だった。
...自分の信じた『運命』だったはずなのに、それすら本当だったのか疑ってしまう俺は、ある意味自分の精神の限界、というところまでそのことを悩んでいたのだ。
(...暁斗?珍しいな、こんな時間に...)
そんな俺のスマホを珍しく昼間鳴らしたのは暁斗だった。
丁度休みで、詩織さんからの連絡を無視した自分自身がよく分からなくなっているこのタイミングで鳴った電話。
一瞬取るかどうか躊躇ったけれど、今の俺と詩織さんの状態を暁斗や弥生は知らない。
普通に会話すれば気付かれることだって無いだろう。
「もしもし?」
そう考えた俺は、数回目のコール音を聞いた後に電話を取った。
*****
「ごめんね、休みなのに来てもらって。」
「別に...大丈夫だ。」
「いやー、本当迷っちゃってさ。弥生は仕事だし陣が休みで助かったよ。」
ーーあの電話から一時間、車で数十分の場所にあるショッピングモール、そこで待ち合わせた俺たち。
暁斗からの電話の内容は、『響くんに渡すホワイトデーのお返しを一緒に選んで欲しい』ということだった。
男同士の付き合いでもバレンタインというイベントは存在するらしく、どうやら暁斗はバレンタインに響からチョコレートを貰ったらしい。
3月に入った今頃はショッピングモールの中も時期的にホワイトデー商戦らしく、あちらこちらにその贈り物が並んでいた。
「目星はあるのか?」
「一応。響くん、最近同じパーカーばっか着てるからさ。新しいのをプレゼントしようかなって。」
「ああ...あの黒のヤツか?」
「そうそう。気に入ったらずっと着続けるから、せめて洗い替えが欲しいじゃん?」
「確かにそうだな。」
暁斗と響は同棲中。『洗い替え』と言う暁斗のことだから、きっと洗濯は暁斗がしているのだろう。
毎日同じ服を着られたら確かに替えが必要だ。
雨の日やまだ寒い日が多いのに、パーカーとなれば乾きも遅い。
暁斗のプレゼントとなれば響だってきっとそれを『お気に入り』にするに違いない。
名案だな、と告げると暁斗はふふ、と笑い、俺たちはメンズ服を取り扱う店が並ぶフロアへと移動した。
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