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2. 『運命の人』 10
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「陣さん!ごめんなさい、遅くなっちゃいました」
「大丈夫だ。それより急に時間を取って貰って悪かったな。」
「全然!...それより大事な話ってなぁに?」
カフェでメッセージを送ったあと、その返事は一時間後、俺と暁斗がショッピングモールを出る頃に来た。
『今夜でもいつでも、大丈夫です』
連絡を返さなかったくせに、俺のメッセージにはちゃんと返事をくれた詩織さんに申し訳ないと思いながら、『では今夜会いたいです』と返した俺は、最後に『大事な話がある』と付け加えた。
詩織さんは仕事が終わってすぐに待ち合わせ場所の公園に来てくれたようで、髪はいつもより乱れていて息も荒い。
待たせちゃ悪いと思ってきっとここまで走って来てくれたのだろう。
「座って話そう。...はい、ココア。」
「はい!わ、あったかい...ありがとう、陣さん」
差し出した缶を受け取った詩織さんは、目を細めて微笑んだ。
俺と同じで大の甘党、飲み物はいつもホットココア。
本当はカフェにでも入ればいいのだけれど、周りに人が居る中で話すことじゃないと思った俺は人気の無い公園を待ち合わせ場所に選び、せめて飲み物くらいは、と近くの自販機で買っておいたのだ。
安い缶の飲み物なのに、それを大事そうに両手で持った詩織さんはやっぱり可愛らしい。
欲の無い、素直な女性。
そう再認識した俺は、ベンチに座るとすぐに『大事な話』を口にした。
「詩織さん、俺は貴女に謝らなきゃならないことがある。」
「え...?」
「俺は...俺は、三度目に本屋で出会ったあの日、貴女が運命みたいだと言ったあの日から、貴女が自分の運命の人だと思っていた。」
「...私も、そう思っています...」
「だけど俺はその運命という言葉に捕らわれすぎていた。...貴女と話が合うのも、趣味が合うのも、休みが重なることも、全て運命の人だからだと決めつけていた。付き合うことだってそうだった。運命だからこうなるんだと、そう思い込んでいた。」
「......」
「...貴女は魅力的な人だ。素直で優しくて、子供みたいな一面も可愛らしい。詩織さんは俺の理想の女性だ。」
「...そんなこと...っ」
「だけど...だけどどうしても好きになれなかった。運命なら恋に落ちるのもあっという間だと思っていたのに、そうじゃなかった...」
詩織さんに伝えたのは、自分の素直な気持ちだった。
暁斗にもしもの話をされて、何故自分が詩織さんを好きになれないのかと考えた時、確かに信じている運命というものに縛られて自分の気持ちが見えなくなっていることに気付いた。
『好きになる』と思い込んでいて、詩織さんのことをちゃんと見ていなかったと分かったのだ。
「...そう、ですか...」
「...すいません。でも、だからこそ...」
「え...?」
「だからこそ、もう一度出会った時からやり直してほしい。このお試しの付き合いも止めて、もう一度初めから詩織さんとちゃんと向き合いたい。運命なんてものを忘れて、詩織さんのことをちゃんと知りたい。...それが、俺の話...です...。」
自信無く言った俺の言葉、それはカフェで行き着いた俺の『答え』だった。
運命が目に見えるものだとしたら、きっと詩織さんがそうじゃないと分かった時点で距離を置いたと思う。
好きにもならないし付き合いもしない。
でも、詩織さんは確かに素敵な女性だったのだ。
...だから俺は考えた。
そもそも『運命』という言葉が無かったとしたら、初めからそんなもの考え無かったとしたら。
水沢詩織という一人の人間をもう一度初めからちゃんと見れたら、俺の考えは変わるのじゃないかと。
それは詩織さんを好きになる前提ではなくて、もっと純粋に詩織さんと向き合って答えを出したいと思ったのだ。
「...分かりました。」
「詩織さ...」
「...あのね、陣さん。私も話さなきゃいけないことがあったんです。」
俺の話を聞き終えた詩織さんは、ココアの缶を開けて一口飲むと、『おいしい』と言ってから俺の顔を見た。
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