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2. オマケノハナシ

「は!?じゃあお前たち...っ、初めから知ってたのか!?」 詩織さんと友達になってから迎えた3月14日のホワイトデー。 その日俺は友達ではあるけれど、お試しの恋人だった期間に受け取ったバレンタインのお返しに詩織さんへキャンディの詰まった瓶を渡した。 その帰りに偶然暁斗と弥生に出会い、半ば強引に喫煙席のあるあのカフェへと連れていかれた。 この時やっと俺は詩織さんと別れ、友達になったことを二人に伝えたのだけれど、合コンや仕事の話をすると二人は『やっぱりね』と口を揃えて言ったのだ。 「いやいや、違うよ?ただなんとなく...合コンにしちゃおかしいなぁと。」 「そうそう。休みが重なるってのも俺と暁斗みたいに教える人間が居なきゃおかしいよなーって。」 俺が『運命』だと信じたそれらはこの二人にとっては『おかしい』ことだった、と。 それなら何故その時俺にそう言わなかったのかと問えば、 「だって陣が運命っていうからさ?」 「それに水を指しちゃ悪いでしょ。」 とアッサリした答えが返ってくる始末。 俺はそれほどまでにこの『運命』という言葉に捕らわれていたのか?と頭を抱えた。 「まぁまぁ、そう落ち込むなって。詩織ちゃんとはいい付き合いできてるんでしょ?」 「...ちゃん付けで呼ぶな!弥生がそう呼ぶとチャラさが増す!!」 「ひどっ!俺そんなにチャラい!?」 「チャラい!チャラチャラにチャラいわ!!」 「じ、陣、ちょっと落ち着こう?...弥生も笑わない。」 「だって!陣がチャラチャラって...っぶは!」 ーーあれから俺は変わらず『詩織さん』と彼女を呼ぶ。呼び方が変わらないだけじゃなく、俺たちは付き合うという関係が消えただけで、メッセージのやりとりもカフェで喋ることも今までと特に何も変わらなかった。 ああは言ったけれど、これから全く会うことが無かったらどうしようと不安になったのは一瞬のことで、あの別れ話をした翌日に詩織さんから『次のお休みはいつですか?お茶しませんか?』なんてメッセージが届いたのだ。 『詩織ちゃん』なんて馴れ馴れしい呼び方にムカつくけれど、弥生の言う通り俺たちは前よりずっといい関係になったと思う。 友達になれて良かった、そう会う度に実感する。 「...暁斗、世話になったな。」 「何いってんの。俺は思ったこと言っただけだよ?決めたのは陣と詩織さんじゃん。」 「でも暁斗のあの言葉が無ければ俺はあのまま...よく分からないままモヤモヤしていた。弥生に相談しなくて良かったよ。」 「ちょーっとお!?さりげなく俺のこと馬鹿にしたよね!?」 「本当のことだ。それより暁斗、一つ聞きたいことがあるんだが。」 あの日暁斗の言葉に助けられた俺はこの時やっとそのお礼が言えた。 チャラい弥生には嫌味を添えて、そしてどうしても気になっていたことを暁斗に質問する。 「もう捕らわれたりしないが、運命というのは本当にあるのか?誰にでもあるものなのか?...一応聞いておきたくてだな。その、今後の参考までに。」 それはまたしても運命についてのことだった。 本当にそんなものが、誰にでもあるのだろうか? ...ふと思った素朴な疑問。 自分の両親は一度もそんな言葉を言ったことがなくて、自分の周りでそのことを口にするのは暁斗と弥生くらい。 ならばそんな出会いやそんな人は、出会える確率の低い誰にでも無いことなんじゃないかと思ってしまったのだ。 「うーん?俺はあるって思うけど?弥生は?」 「俺も。現に千裕と出会ってるしね。」 「俺も響くんが居るからだけど...そうだなぁ、これは俺の意見だけど、きっと色んなことがあってあとから気付くんだよ。『ああ、この人が自分の運命の人だったんだ』って。それを感じるか感じないかの差じゃないかな?」 「あー、それそれ!出会いなんていくらでもあるし、最初っから運命なんて思ったらキリ無いぜ?」 「...なるほど。参考になった。ありがとう。」 「でも出会いが欲しいなら合コンのセッティングするぜ?女の子の人脈は山ほどあるからな!」 「それは結構。」 やはり暁斗の言葉はスッと俺の中届く。 なんというか、経験者が話すことが納得しやすいように絶大な信頼感がそこにあるのだ。  弥生の話はその半分にも満たないくらいだし、元々軽い男だったことを知っているからこそどうも信じられない。 悪いやつじゃないことは分かるけれど、とにかく何もかもが軽いのだ。この男は。 それから俺たちは飲み物が無くなるまで『運命』とやらについて語り合った。 もうすぐ30になるというのに、やけに乙女な会話に花を咲かせ、灰皿にタバコの吸殻が山を作るまで、珍しく意味のある会話をした。 響から『まだ帰ってこないの?』というメッセージが暁斗に入ると自然とこの会は解散となり、俺たちは同じ方向に向かって歩き出す。 まだコートの欠かせない寒さで、思わずポケットに手を入れて歩いていると、正面から歩いてきた人影と身体がぶつかった。 「っと、失礼」 「......」 相手はキッと俺を睨むと何も言わずにその場を立ち去る。 こちらが謝っているのだから、何か一言くらい言うべきだろう、と思うほどに失礼な人だ。 「...もしかしたらそれが運命の出会いかもよ~?」 「はぁ!?」 「そうそう、運命の出会いって何処にあるか分かんないからねぇ?」 「な、無い!あんなのただぶつかっただけだろう!?」 「「分かんないよ~??」」 ...全くこの義兄弟は!! ニヤニヤと笑う二人は完全に俺をからかっているように見えた。 ムカつく、やっぱりムカつく。 友達をからかって何が楽しいんだ!? ーーそう、イライラしたはずなのに、何故か俺は笑っていた。 この二人と出会えたのも、こうして二人と友達になれたのも、今となっては『運命』だったのかもしれないと思う自分が居たからだ。 チャラいくせに世話焼きで実は家事も料理も出来る無駄に顔の良い弥生 外見は大人な男のくせにその中身は意外にも子供っぽく嫉妬深い暁斗 この二人は俺の『運命』によって出会えた生涯の友。 それにハッキリと気付くのは、まだまだずっと先の未来の話。 END.

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