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3. 記憶喪失事件 7
なんで、なんで、なんで。
どうしてこうなった?
必要以上に関わらず、弥生を怒らすようなことだってしていないはずなのに。
「...ッ、やっば...、お前のナカめちゃくちゃ具合良いじゃん...ッ」
「んーー!!んッ、」
「何これ、こんなの初めてなんだけど?お前もしかしてソッチの店の子?」
「んんん!」
「あーごめん、何言ってんのか分かんねぇや。」
「んぅッ、う...ッ!!」
『帰ってこない』
そう分かっていたのに弥生の姿を見なきゃ眠れなかった昨日の夜、弥生は遅くに帰ってきてからずっと不機嫌だった。
顔に出るわけじゃなくて、今まで一緒に過ごしていたからこそ分かる弥生の雰囲気。
それは今も同じで、イライラしているのが分かるっていうのに、なんで俺とエッチしてるんだ?
後ろで縛られた手首は痛いし、詰め込まれたタオルのせいで息はしづらい。
いつもなら慣れていてもしつこいくらいに愛撫してトロトロになった俺に『おねだりして?』とかムカつくこと言うくせに、今俺のナカに挿って腰を振るこの男はそんなこと一切しないし言葉にもしない。
まるで初対面の俺を都合よく抱くような、そんな冷たいエッチ。
こんなの知らない、こんな弥生は嫌だ...。
「ッ!?」
「ん、イイトコ当たった?」
「~~~~っ!」
「こっちも元気になってんじゃん、イキたかったらイッていーから...ッ」
なのに身体は素直だ。
相手の中身が違っていても、散々抱かれてきた弥生の身体に触れられたらすぐに反応し出してしまった。
本人は無意識なのかもしれないけれど、俺の弱い所ばかりを突いてそれを止めようとしない。
言葉や態度は別人なのに、このエッチは今までの弥生と同じ。
ーー変わらないことが嬉しい。それと同時に俺を覚えていない弥生と繋がることが悲しい。
打ち付けられる肌の音が激しくなると、嫌なのに気持ちよくて何が何なのか分からなくなる。
「んッ、んぅ...ッ、んん......ッッ!!!」
「っく...、」
同時に果てることだって、今は胸が張り裂けそうなくらいに辛かった。
弥生は一度出すと満足したのか、すぐに俺のナカから自身を抜いた。
まだ呼吸の整わない俺をチラッと見る弥生の目はやっぱり冷たい。
「...なんで嫌がんないの?」
「......」
「男に掘られてナカに出されて、なんで泣かないの?嫌じゃないの?」
「......」
「あーそっか、喋れないか。」
まだ不機嫌そうな弥生はそう言うと、雑に俺の口からタオルを出した。
やっと息苦しさが無くなって、はぁはぁと呼吸する俺に弥生は『ねぇ、なんで?』とさっきの問いの答えを求める。
なんで嫌がらないのか、ナカに出されても泣かないのか...
そんなの答えは簡単だ。
いつも弥生がそうしているから、弥生に数え切れない程抱かれてきたから。
もちろん弥生以外の経験は無い。...悲しいことに女の子との経験だって俺には一度も。
キスもエッチも、他人に肌を触れられることも、その気持ちよさや嬉しさも、全部弥生から教わったんだ。
弥生だったから、相手が弥生だったから俺の身体は嫌がらなかったし、こんなに辛いのに涙だってでなかった。
「...ふーん、答えないんだ。」
でもそれを今の弥生には言えるはずない。
そんなこと言ったら俺が弥生の『特別』だったと知られてしまう。
そうしたら今の弥生はきっと俺を切り捨てるだろう。
誰か一人に固執しない今の弥生に、気付かれちゃいけない。
俺は弥生が必要だから。俺を覚えていなくても、側に弥生という人間が居なかったら生きていけないほどに、今よりずっとずっと苦しいから。
「じゃあいいよ。...今度は嫌がって泣くまでするから。」
「え...、っあ!?」
「痛くても俺には関係ないし、な。」
「やぁっ、やだっ、ああっ!!」
頑なに口を開かない俺。そんな俺を見た弥生はイラついた口調でそう言うと、再び後孔に自身をねじ込んだ。
さっきナカに出されたせいで滑りはいいけれど、弥生の激しい動きに俺の気持ちは全然付いていけない。
辛い、苦しい、悲しい、嫌だ...
そんな感情が溢れて、気持ちよさなんて全く無い。
こんなことしたくない。
今の弥生と繋がるなんて、もう耐えられない...。
「やめて...っ、止まって、お願いだからぁ...っ!ミキ...っ!」
絞るように出した声。
それを聞いた弥生は、ピタリと動きを止めた。
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