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4. 『大丈夫』 1

筒尾 響 それは俺の愛して止まないたった一人の唯一の存在。 笑顔の似合う響くん。 泣き顔は極力見たくないし泣かせないようにしているけれど、たまに最中でいじめすぎて泣いてしまう所は何度見ても愛しくて、可愛くて、仕方ない。 澄ました顔は『綺麗』そのもの。 出会った時よりも大人びた表情を見せ、それは触れたら壊れてしまうんじゃないかと思う程に美しかった。 そんな魅力的な存在、響くんが他の女や男に盗られないかと心配することは付き合って同棲を始めてからも尚続いていた。 ...いや、どちらかといえば付き合ってからの方が心配する事が増えたかもしれない。 だって響くんは初めて見たときよりずっとずっと、その魅力を増していたから...。 『いつか別れが来るのではないか』 『自分より夢中になれる人が出来るのではないか』 響くんには絶対言えない不安を抱える俺は実に女々しいと思う。 だけどそれくらい響くんは素敵な男性になっていたんだ。 「あーきーとーさーーんっ!」 「わ、どうしたの?」 「んー?なんか悩んでる顔してた。何かあった?」 「...響くんがどんどんカッコよくなって、困っちゃうなぁって。」 「は?何それっ!あり得ないあり得ない。暁斗さんの方がカッコいいよ!」 「そう?」 「うん。俺暁斗さんだーいすきっ!」 「俺も、響くんだけが大好きだよ...」 はにかむ笑顔を見せる響くんにそっと唇を重ねた俺は、『どうかいつまでもこの幸せが続きますように』と願う。 響くんの『大好き』がずっとずっと俺だけに向けた言葉であるようにと...。 ーーだけど。 それは盆休みを前にした夏真っ盛りのある日突然起きた。 「瑞希(みずき)っ!」 「響ーっ!久しぶりっ。」 「ね、早く行こ!俺瑞希と行きたい所たくさんあんの!」 響くんの休みだったその日、珍しく予定があると言って朝からソワソワしていたことを不審に思った俺はこっそり響くんの後を追いかけていた。 こんなことするだなんて、まるで響くんを信じていないみたいで罪悪感があったけれど、そうせざるを得ないくらいに響くんの行動はおかしかったのだ。 いつもなら『休みだから1日中ゴロゴロ』しているのに、俺より早く起きて念入りに支度をし、何度も何度も時計の針を見つめては口元を緩ます。 何かあるの?と聞けばあの可愛い笑顔で予定がある!と答えたけれど、その予定が何なのかまでは教えてくれなかった。 予定があると答えた時点で浮気ではない、と分かっていたけれど気になって気になって仕方なくて、仕事をずる休みした俺はこうして一定の距離を保ちながら響の行動を追っていたのだ。 何度も言うけど女々しいのは分かってる。 だけど...響くんはどれだけ心配しても足りないくらいに本当に魅力的な男性になっていたんだ。 (響くん....ごめんね...。だけどその人は...?) そして俺は響くんが待ち合わせていた相手を見て胸のザワつきを止められずにいた。 『瑞希』と呼んだその人は、響くんに負けない綺麗な女性。 化粧は濃いけれど元々のパーツが良いからなのか嫌味がなく、並んで歩く二人に身長差はさほどない。モデルのようにスラッとした細身のその女性も、響くん同様すれ違う男がチラ見するくらいに魅力的だった。 だけど俺は今までに『瑞希』という名前を聞いたことは無いし、こんな女性を見たことはない。 今まで一度だってだ。 仕事絡みだとすれば、きっとこれほどの美人を弥生がスルーすることはないだろう。 ならばプライベートの知り合い?...にしては2人の距離が近すぎる。 今にも腕を組んで歩きそうな2人を見てハラハラするくらいなのだから。 「あ、瑞希っ!クレープ食べよ!」 「響甘いのダメでしょ?」 「うん。でも瑞希は好きでしょ?あそこ美味しいって有名だから瑞希に食べて欲しくて!」 「...もぉ、響ったら...。優しいんだからっ!」 ...ほら、こんな会話しているのだっておかしいだろう? 初対面で好みを知っていることはないし、親しい人以外の他人に興味が無くて極力関わろうとしない、そんな響くんが他人の好みに合わせて店を選ぶだなんて... (もしかして...本当に浮気......?) 胸のザワつきは増す一方。 クレープ店で注文する2人を見る俺は考えたくない可能性を頭に過らす。 響くんが、あの響くんが... 『浮気』 をしているのではないか、という最悪の可能性を。

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