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4. 『大丈夫』 2

居ても立ってもいられなくなった俺はスマホを取り出し仕事中であろう弥生に電話を掛ける。 『はーい?』 「ねぇ、瑞希って名前の美人、弥生の会社にいる?」 『は?いきなり何...そんなの居ないけど...?』 「じゃあ響くんの友達とか知り合いは?」 『居ないんじゃねーの?響の友達って俺らとかダッチーくんくらいでしょ?』 「...そう、だよな...」 やっぱりあの2人は仕事絡みや元々交遊関係があったとか...そんな付き合いじゃない。 電話口で心配そうに『何があった?』と聞く弥生の声を遮るように通話終了のボタンをタップした俺は身体の力が抜けた。 響くんが俺の知らない人と会っている。 楽しそうに笑っている。 たったそれだけなのに嫉妬心は自分を乱し、どうしたら良いのか分からなくなる。 今までここまで嫉妬したのはゲームの中のキャラクターと陣くらいだった。 どちらも最終的には丸く収まったけれど、何故か今回はそうは行かないような気がしたのだ。 だって相手は『女性』。 俺がどう努力したところで変わらない性別に大きな壁を感じた。 やっぱり異性の方がいいのだろうか? 俺は華奢でも可愛くもないし、響くんより体型もしっかりしている。 それに比べてあの女性は細いし綺麗だし、何より響くんと並んで歩くその見た目は釣り合っていて『お似合いのカップル』と言ってもいい程。 俺と歩けば友達か兄弟としか見られなくて、街中で恋人らしいことは出来ないけれど、相手が異性ならばそれも出来る。 もしかして響くんはずっとこのことを不満に思っていたのではないか? 俺が気付かないだけで悩んでいたのではないか? もしそうだとしたら... 男の俺に勝ち目なんで、何処にも無い。 そんなことを考えているうちに2人はショッピングモール行きのバスに乗り、俺の前から消えた。 楽しそうなあの笑顔は絶えず、距離だって変わらないまま...。 このあと響くんはショッピングモールでデートするのだろうか? 手を繋いで歩くのか?それとも腕を組んで歩くのか...? 今夜は帰ってくるのか?帰ってこないのか? (はは、俺どうしたらいいんだ...?) こんなことになるなら、後を追うだなんてことしなければよかった...。 そう後悔してももう遅い。 行き場の無い気持ちを抱えたまま熱くなった目頭を押さえる俺は、やっぱり響くんと付き合ってから女々しくなってしまったと実感した。 ***** 部屋に戻ればきっといつまでも響くんの帰りを待ち続けてしまう... そう思った俺は、いつも仕事が終わる時間まで外で時間を潰した。 と言っても冷房の効いたカフェでボーッとしていただけ。 頭の中で響くんと『瑞希』という名前の女性が楽しそうに笑うあの姿がぐるぐる回っていて、酔いそうな程に気分が悪かった。 自分はもう二度と響くんを手離さないと決めたけれど、もし響くんが別れを望んだらどうしたらいいのか?...なんてマイナス思考は止まらない。 ーーガシャンっ 「...大丈夫?」 「すいません...」 少しでも落ち着けたら...そう思ってコーヒーに口をつけようとしたはずなのに、手元は狂いグラスは床に落ちてしまう。 幸いグラスは割れることは無かったけれど、溶けた氷が床に散らばり、一つ席を開けて座っていた女性客にまで心配されてしまう程、情けない自分。 よく見ればグラスの中にはこの氷以外入ってなくて...コーヒーを飲みきっていたことにも気付いていなかった自分は本当にどうかしていた。 「店員さん、呼んでくるわ」 「あ...いや、自分が...」 「おかわりしようと思ってたから。ついでよ。」 「え...」 そんな俺に声を掛けたのは店内だというのにサングラスをし、黒いワンピース姿の女性。 悪いのは自分なのに店員を呼んでくれて濡らした床を片付けてもらうと、おかわりのアイスコーヒーを持った女性は元いた席から荷物を取ると、俺の座る席の向かいに腰掛けた。 「はい、アイスコーヒーでいいわよね?」 「...え...あ、あの」 「お兄さん、すっごいイケメンなのにずっと暗い顔してるから。何か悩み事?」 「いや...」 「私夜まで暇してて。忙しいのに無理矢理仕事抜けてきたのにこっちに友達居ないし...ねぇ、ちょっと相手してよ。」 そう言った女性は俺にアイスコーヒーを渡すと、『これ飲む間だけでいいから』と付け加えた。 強引だけど何故か拒否できない、そんな態度に俺は断ることができず、どうせ自分も暇だしなと皮肉なことを考えながら有り難くコーヒーに手を伸ばす。 今思えば見知らぬ女性に奢ってもらうだなんていつもならあり得ないことなのに、このときは断ることができなかった。 そして俺は女性に話してしまったのだ。 自分の恋人のおかしな行動と自分の知らない女性と会っていたこと、全てを。 『今の自分は自分じゃないみたいだ』 そう思いながら、ポツリポツリと時間をかけて。

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