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4. オマケノハナシ

ーーーーーーー ーーーー 「はい、暁斗さん」 「ん?なぁに?」 「瑞希がこの前の写真、プリントアウトしたんだって!ほら、瑞希めっちゃ撮ってたでしょ?」 お盆休みが過ぎ9月に入ったある日の夜、仕事から帰ってきた響くんは写真の束を俺に渡した。 『中々会えないから』と言って確かに瑞希さんはパシャパシャとスマホのシャッター音を鳴らしていたな...。 「ありがとう」 「先に見てて!俺シャワー浴びてくるっ」 9月に入っても残暑は厳しく、汗だくの響くんはそう言ってリビングを出た。 俺は何枚あるんだ?と手元の写真の束に笑いそうになりながら、それを一枚一枚見ていく。 美月さん、柚樹さん、響くん、俺... 撮影した本人の瑞希さんは自撮りばかりだから顔が見切れているのがほとんど。 だけど写真はどれも楽しそうに笑っているものばかりで、幸せを感じたあの日を思い出して口元が緩んだ。 「ん...?」 そんな写真の中に、一枚だけあの日のものとは違う写真を見つけた。 響くんやお姉さん達とよく似た顔立ちで、少し照れた表情で並ぶ俺より年上の男女。 スーツ姿の男性は響くんそっくりで、未来の響くんと言った所だろうか。 その横に立つ女性は黒いワンピースを着ていて、右手にサングラスを持っている。 「あーすっきりした!」 「ひ、響くん!これって...」 シャワーから戻った響くんがリビングの扉を開けるなり俺はその写真を見せる。 だってこの女性、見覚えがあるんだ。 初対面なのに誰かに似ている気がして、情けない自分の弱音を吐いてしまったあの女性に似ている...いや、似ている所じゃない、この女性があの日俺に『大丈夫』だと言ったのだ。 「え?あ、それ俺の両親だよ?父親が結城(ゆうき)で母親が夏生(なつき)。あの日会えなかったから写真送ってくれたのかなー?」 「ご...両親...」 「うん。あれ?でもこれ日本だよな?しかも姉ちゃん達が泊まるって言ってたホテル??」 「......マジかぁ...」 「ちょ、暁斗さん!?」 はぁ、と大きく息を漏らした俺は脳内で『あの日』の事を思い出した。 何故かあの女性に抵抗なく話をしてしまったこと。...女々しい自分の姿をさらけ出してしまったことを。 (まさか響くんのお母さんだったなんて...) 恥ずかしいにも程がある。 自分が話した事を思い出せば思い出すほど、それは『恋人の母親』に話す内容なんかじゃなかったことで...顔から火が出る、というのはまさに今の俺にぴったりな言葉だ。 心配そうに俺の顔を覗き込んだ響くんは、俺がお母さんに会って相談やノロケ話をしてしまったことなんて知りもしないだろう。 いや、あんな情けない自分は出来れば知られたくない。 「...ごめん、ちょっと...」 「なんかあったの?」 「うーん...、まぁ...ね?」 「なにそれ!俺に隠し事!?それは無しでしょ!?」 恥ずかしいから内緒にしたい、それは以前よりだいぶ素の自分をさらけ出すようになった俺の中に残っていた僅かな『プライド』。 格好付けたい、好きな人の前でだからこそしっかりした自分を見せたいと思っていたのに...。 拗ねるように頬を膨らました響くんの手が俺の持っていた写真の束に触れ、それがバサリと床に散らばる音がした。 『あ、』と二人でその写真に目を向けた瞬間、写真の中から一枚の紙がヒラリと落ちてそこに並んだ文字を見た時、それは自己満足に過ぎないのか、とふと思ったのだ。 弱いところも女々しいところも...どんな姿だって響くんなら受け入れてくれるかもしれない。 あの日の誤解を喜んでくれたみたいに、言葉にしなければ自分の気持ちは伝わるはずないのだから。 「...隠し事なんてしないよ。だけど俺、本当に情けないくらいここ最近響くんのことが心配でさ...。嫌われないか心配なんだよね。」 「はぁ?俺が暁斗さんを嫌いに?...そんなのあり得ないから!!」 「本当に?女々しくて心配ばっかして、重くてウザい男だよ?」 「それだけ俺の事を想ってくれてるんでしょ?」 「...そう、だけど...」 「なら嬉しいよ!俺、暁斗さんにそうやって想われてるの幸せだもんっ」 ーーほら、やっぱりそうだ。 響くんはニッと微笑むと、俺の横に座り『ほら、話して?』と催促した。 きっと響くんじゃなかったら...話す気になんてならなかっただろう。 自分が本気で恋に落ちた相手、『運命』だとすら感じた相手だからこんなにも伝えなければと思うのかもしれない。 「...あのね、」 同じシャンプーの匂いがする半乾きの髪に触れながら、ゆっくり話し出す俺を見つめる瞳。 それは『あの日』、俺の話を興味津々に聞いてきたあの女性の瞳に良く似ていた。 オマケノハナシ① END.

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