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第73話
「……」
しばらくアキラが去った余韻を送り…
「とりあえず、座らないか?」
フミヒコはみずきを促す。
みずきも頷き…机を挟んで向かい合わせに座る。
「……」
フミヒコはしばらく黙ってみずきを見ていたが…
浴室のドアを閉まる音が微かに聞こえると…
「…率直に言おう、サクヤから手を引いてくれ…」
突然話し出したかと思えば、思いもよらない言葉…
「なっ…け、契約は解消してくれるんじゃ…」
アキラから聞いた言葉とはまったく正反対で…
言葉に詰まるほど驚くみずき。
「…私自身は納得していない、それに一時的にとサクヤにも言ってある」
自信に満ちた態度でみずきにきり返す。
「俺は、引く気なんかない!」
みずきははっきりと言い切る。
譲れないものは、譲れない…
強い口調で断る。
「手切れ金として300万用意しよう」
さらっと大金を提示するフミヒコ。
「な、金なんかいらない!アキラは物じゃないんだ!!」
カッとなって言い返す。
「俺は、アキラのことが大切で、本当に愛しているから…こんなところから助けてやりたい…絶対に引く気なんかない!」
みずきは、そう強く言い切るが…
「…ふ、」
フミヒコは冷たい目で笑うと…
「君は…大学生か?どこの高校を出ている…?」
不意に質問してくる。
「…っ、か、関係ないだろ!」
みずきは…答えられない、大学どころか…
高校にも行っていない、行けていない…自分。
「…学生ではないのか?ならどこで働いている?収入は?」
次々と尋問のように問ってくる。
「っ…」
仕事は…コンビニの店員…
しかし、それを言ってしまうとフミヒコに嘲られるような気がして…言葉に詰まるみずき。
「言えないのか?誇れるような仕事をしていない証拠だ…」
「…っそんな事は無い!」
フミヒコの言い方に、カッとなり言い返してしまう。
たとえ仕事がコンビニの店員だとしても、一生懸命働いているのだから…けなされるのは気分を害する。
「…ふ、怒鳴るのはよせ、私はただ、君にサクヤを幸せにするだけの力があるかどうかを聞いたまでだ…」
みずきとは違い余裕をもって話すフミヒコ。
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