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第119話
「アキラ…!」
「アキ兄?」
二人の呼びかけに答えることなくアキラは脱衣所を出ていってしまう。
「……」
みずきは軽く息をついて、身体を拭き、浴衣を身につけはじめる。
その様子を横で見て…コウジは、つい声をかけてしまう。
「…アキ兄、なんでかな…そんなに焦って決めなくてもいいと思うのに…、でも鈴鹿さんは、すごいと思う…あんなアキ兄でも見放さないんだから…」
あんな身勝手なアキ兄なのに…と、感心したように言うコウジ。
「…見放せないから…」
浴衣を整えながら静かに答えるみずき。
「…アキ兄も、こんないい人…恋人にもってるのに、大切にしないなんて…ホント贅沢…」
羨ましい気持ちも含めて言葉にするが…
「…そうじゃないんだ…たぶんアキラは、俺たちのことを誰よりも考えてくれている、自分の事以上に…」
みずきは緩く首を振る。
「え?」
「アキラは、あぁ言うふうに強がってみせるけれど…、病の事…不安にならない訳はない…それでも、あいつはそれをひとりで抱え込もうとする…迷惑をかけないように…と、アキラはそういうプライドの持ち主だから…」
今まで、少しずつ話し合ってきた…そのアキラの気持ち、本音と建前…。
なにかを選べば…別のなにかは失ってしまう…そう考えて、最良の選択を選ぼうとしている。
「…鈴鹿さんって、アキ兄のこと…本当に好きなんだね…よく分かってる」
羨ましさを含めて言葉にするコウジ。
しかしみずきはまた緩く首を振り…
「…アキラの心の内は複雑で、まだまだ分かりきれてはいない…けれど、少しでもアキラに近づきたい…気持ちを分かっていきたいから…」
「……その真剣な気持ち、きっとアキ兄に伝わってると思うよ?…アキ兄の屈折した物言いは子供の頃からだから…弟の僕にも、よくわかんないアキ兄だけど、よろしくお願いします」
そう、コウジはみずきに頼む…
「…あぁ、ありがとう、俺は行くから…あとを頼む、まだ騒いでいたから…」
露天風呂内で騒ぐ三人を危惧して言う。
「はー、まったく、鈴鹿さんに比べて瞬はコドモなんだから…」
コウジはやれやれとぼやいている。
「…ルードとヨシもだな、すまない」
保護者な気分で謝る。
「いえ、大丈夫です!あの三人は楽しんでるようだし…アキ兄のトコ行ってあげてくださ…」
コウジの言葉を遮るように露天風呂の方から笑い声が聞こえてくる。
「あははは…」
「馬鹿、笑い事じゃねーだろ」
「大丈夫?気分悪くない?」
「へーきへーき、はは、ドジった…」
騒がしくあがってきたのは、瞬助たち三人。
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