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第3話

 だが、ふたりの逢瀬を阻む者が現れる。トオルの背後に立った人物は棘のある口調で吐き捨てた。 「トオル。君はいったい何をしているのだい?」  第三者の声にハッと身をすくませたトオルは、おそるおそる背後を振り返る。その人物はトオルよりも幾分か背が高く、逆光になっているため、すぐに誰なのかが判別できなかった。  だが、その独特なしゃがれ声には覚えがある。トオルはその人物の名を口にした。 「ジェレミー……」  ジェレミー・マシューはトオルのかかりつけの精神科医だ。だがそれ以前に、ふたりは学生時代の同級生でもある。ジェレミーもまたミシェルの死を知っていたため、彼女を喪ったトオルの精神的なケアを務めている。 「すまないジェレミー、もう少ししたら行くから」  トオルはたびたびジェレミーの家に赴き、彼から個人的なカウンセリングを受けている。今日はそのカウンセリングの日であり、ミシェルへの挨拶を終えたら、すぐにでもジェレミーの家へ向かうつもりだった。 「まったく。君はいつも私を待たせてばかりだ。少しは私の気持ちも考えてもらいたい」 「気分を害してしまったのなら謝る。さあ、もう充分だ。君の家へ向かおう」 「……トオル、その指輪はいつ捨てるつもりだい?」  ジェレミーの眉が気難しく歪む。トオルは結婚指輪をはめたままの左手を後ろへ隠し、ジェレミーの目から遠ざけた。

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