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第6話
「トオル、私を見てくれ。私の声を聞いてくれ」
「……ジェレミー、私はまた君に何か良くないことを言ってしまったのかい? 知らず知らずのうちに、君を傷つけてしまったのかい?」
「――ああ、そうだよ。可愛い私の天使」
ティーカップをテーブルに置いたジェレミーが微笑みかける。その顔は三十年来の友人の顔でも、精神科医の顔でもない。
トオルは身震いをする。
正面に座るジェレミーは紳士然とした平常の顔ではなく、トオルが見たことのない肉欲にまみれた雄の顔をしていたのだ。
本能的に恐怖を覚える。
トオルは腰を上げ、中座を申し出ようとしたが、逃がさないとばかりにジェレミーがきつく手首を掴む。万力のような力だった。
「ずっと君を愛していたのだ」
「何を……言って……?」
「トオル、私は君をずっと愛していたのだ」
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