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第7話
ジェレミーの屋敷から逃げ出したときの記憶はない。
あれからトオルは自宅へ閉じこもるようになった。
ジェレミーの屋敷からの帰り道はタクシーでも使ったのだろうか。現金がいくらか無くなっていたが、そんなことに気を回す余裕はなかった。
――ずっと君を愛していたのだ。
あの言葉は真実だったのだろうか。ジェレミーの屋敷から逃げ出してから、トオルは彼の言葉に囚われ続けている。
ジェレミーとの出会いのきっかけはよく思い出せない。気づけばカレッジ内で話す友人のひとりになっていた。
ミシェルと交際するようになってからも、ジェレミーとの友人関係は良好だったはずである。その後もジェレミーとは連絡を取り続け、一度たりとも交友の糸が切れたことはない。
トオルはそこではたと気づく。
ジェレミーと出会って三十年。
ミシェルを除けば、彼以外の人間と深く関わりを持ったことがない。
ジェレミーとの距離が近すぎて、彼を特別な人間だと思ったことが一度もなかったのだ。
「ジェレミーが私を愛していた……?」
心の中で、何度も反芻する。
愛していた、とは文字通りの意味なのだろうか。
ジェレミーは恋愛対象として、トオルを愛していたとでも言うのだろうか。
同性愛に偏見はないと言っても、長年友人だと思っていた相手に恋情を抱かれていたのだと思うと、どことなく嫌な気持ちになる。
これからジェレミーとの関係をどうしていけばいいのか。
だが、トオルに悩む時間はなかった。
「トオル。私だ。ジェレミーだ。ここを開けてくれ」
幻聴だと思った。だが玄関扉のガラス窓の向こうには、上質なコートをまとったジェレミーの姿があった。
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