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第13話
「トオル、とても似合っている。最高に美しいよ。私の花嫁」
半歩前を歩くジェレミーにエスコートされながら、トオルは慣れないヒールを履き、おぼつかない足取りでヴァージンロードを進む。
ヴェールで覆われた視界は見づらく、ジェレミーの手だけが頼りだ。パニエで膨らませたスカートは重く、コルセットで締め付けられた腹部も痛い。
なぜ、女物のウエディングドレスを着て、ジェレミーの隣を歩かなければならないのだろう。
だが、ジェレミーの華やかな笑顔を見ると、途端にそういった気持ちは弾けとんでしまう。
今日のジェレミーは、いままで彼と過ごしてきた時間の中で、もっとも幸せそうに見えた。
純白のタキシードをまとったジェレミーと彼の自宅に隣接する教会で結婚式をすると決めたのは、あの日、ジェレミーが花束を持って訪れたあとだ。
トオルの感覚は麻痺していた。
精神科医のジェレミーの言葉は、どんな経典よりもトオルの心を癒し、慰めた。
ミシェルを忘れるわけではない。
だが、何もかも投げ出して、もう一度幸せな人生を取り戻したいと思ったのも事実だった。
祭壇の前へ着くと、ジェレミーと向かい合うように立たせられる。
小さな教会で挙げる、ふたりだけの挙式。周囲は荘厳な空気に包まれた。
「退屈な口上はやめよう。トオル、私は君を死ぬまで愛し続けると誓う。君は?」
「ああ……ジェレミー、私も君を一生愛し続けるよ」
「神に誓って?」
「もちろんだ」
「死がふたりを別つまで――」
ジェレミーはトオルの顔を覆っていたヴェールをめくり、現れた唇に誓いのキスをした。
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