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第16話
「ああ、ジェレミー……足が、足が痛い……」
「私はここだ、トオル。私のもとへおいで」
「っ、あ……あっ、ジェレミー!」
最後は倒れかかるようにして、トオルはジェレミーの胸になだれこむ。トオルの痩せた背を、ジェレミーはしっかりと抱き留めた。
「トオル、私を愛してくれるだろう? 私の愛を受け入れてくれるだろう? 君の口から答えを聞きたいな」
鼓膜の奥に囁くジェレミーの顔は悪魔そのものだ。だが、ジェレミーの胸に顔を埋めているトオルは気づかない。
息を吹きかけられる感触にぞくりと身を震わせ、小さく口を開く。
「私はジェレミーを愛しています……。ジェレミーの愛がほしい……」
「よく言ってくれたね。さすがは、私の伴侶だ」
ジェレミーは強く抱擁すると、トオルの身体を離し、祭壇へと導く。
「ご覧」
「……ひっ」
ジェレミーのいう祭壇とは、トオルが予想していたものとはかけ離れていた。
巨大なゴチック様式のアイアンベッド。マットレスもシーツも何もかもが黒い。さらに、その上には黒い薔薇の花びらが敷き詰められている。
悪趣味である。
トオルの高揚感は一気に覚めたが、背後のジェレミーはそれをよしとはしなかった。
「さあ、横になって」
「ここに……かい?」
「もちろんだ。先に言っておくと、その薔薇たちもすべて防腐処理を施してある。生花独特の嫌な臭いや湿っぽさはないから、安心したまえ」
「し、しかし……」
「早く横になりなさい」
有無を言わせぬ口調でジェレミーが命じる。
トオルは言われるがままにベッドに上がり、横になる。パニエで膨らんだドレスがわずらわしいが、ひとりではうまく脱げそうにもない。
視線で訴えると、ジェレミーはそのままでいなさい、と言った。
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