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track.7

「…………さん、……山さん……。葉山所長!」 「あ、ハイ。ごめん」  葉山は事務所のデスクでぼんやりとペンを握ったまま意識だけを手放していたが、声を掛けられようやく正気に戻る。 「大丈夫ですか? 体調悪いとか?」  男性スタッフに本気で心配そうに伺われ葉山は「大丈夫、大丈夫」と笑って誤魔化した。 「亀山邸の図面上がって来たんで、修正確認お願いします」  葉山は笑顔を消して頷くと、真剣な表情で図面に目を通し出す。一箇所動線部分が気になったようで赤いマーカーでチェックをつけ隣に“修正”と書き込んだ。  自由は少し痛む喉を無意識に手でさすりながらいつもの公園をぼんやりと歩いた。  夜の公園からアコースティックギターの音とそれに合わせるように歌う声が聴こえ、自由は自然と視線をやった。  二人組の若い男性が楽しげに歌い、それを通行人や何人かの客が立ち止まり、見守っていた。二人の前に置かれたギターケースには小銭やジュースなどが入れられ、自主制作であろうCDの宣伝が「聞いて下さい!」と大きく書かれ貼り付けてあった。  自由は身体を正面に向けて、しばらく二人の歌に聴き入った。  正しくは二人が歌うその姿に見入った――。    葉山はテレビをつけることもなく、空気清浄機の小さなモーター音だけが微かにする静かなリビングのソファでひとり、晩酌をしていた。  テーブルに置いた携帯が震えて着信を知らせ、葉山はゆっくりと手を伸ばす。  相手の見当は大体ついていた――。  耳につけたスピーカーからは外の雑音が聞こえた。人の話し声と遠くで誰かが歌う声がした。 「――もしもし?」 「……全部……アンタの言う通りなんだ……」  名乗ることもせずに相手はいきなり話し始めた。  見当通り、声の主は自由だ――。 「なに?」 「……売れなきゃ意味ねーんだ。好きなことしたけりゃ……先にちゃんと売れなきゃ……一般受けして……それで……それで……」    スピーカーから聞こえる自由の声は震えてひどく弱々しかった。 「……なのに、なんで……こんな辛いんだ……。覚悟だって決めてたのに……ちゃんとわかるのに……。道端で歌ってるやつよりうんと恵まれてるのに……なんで……?……なんであいつらのが幸せそうに見えるんだよ……」  震えていた声はとうとうしゃくりあげて嗚咽を漏らす。 「なんでこんなに……苦しいんだよぉ……」  自由はその場にしゃがみ込んで必死に声を殺して苦しそうに泣き始めた 。  その間、葉山は何ひとつ言葉を発すること無く、自由が気の済むまで泣くのをただ、待ち続けた。

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