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track.10
「やぁっ……あっ、んんっ……あっ」
「――今日は……声大きいな、どうかしたの?」
自由は激しい葉山の抽送に耐えるだけで一切余裕がないと言うのに、葉山は少し息を詰めただけでサラリと自由に問う。
「わっ……かんねっ……。なんか……もぅ……良いんだって思って……」
自由は瞼とその先にある長い睫毛を震わせながら涙で潤んだ瞳を薄く開く。
「……なに……?」
「ガキ……でも、素直でも……良いんだって……」
自由は何かに許されたような顔で微笑んだ。そのすぐそばで目が合った葉山は不意をつかれたように瞳を揺らす。
「……葉山……?」
「……色気ねーな、その呼び方やめろ」
葉山は自由を自分の腕の中に収まるように優しく抱き寄せる。
「……誠一郎……さん……?」
ひどく照れ臭そうに自由は上目遣いで葉山をチラリと覗く。
「ぷっ、ガラじゃなかったな」
「もうっ、何だよ! アンタが呼び方がどうとか言っ……やっ、あっ!」
自由の一大決心をあしらうみたいに葉山は再びその細い身体を深く揺らした。
突然のこと過ぎて自由は一気に力をなくし、葉山が強く繋いでくれた手に縋り付くので精一杯だった。
自由はすっかり疲れ果ててぐっすりと深い眠りの中にいた。小さな子供のように細い指が葉山の手を強く握りしめている。
「なっ、96年生まれ! 早まったかな……」
葉山は隣で自由がやっているバンドのホームページを覗いてひとり卒倒した。
「……ま、今さらか……」
何もかも引き下がるには手遅れになった今、それを後悔したところで無意味だと葉山は見ていた携帯を枕元に投げた。
そして、自分の腕の中で安心して眠る幼い寝顔の自由を眺め、その小さな頭にキスを落とす。
「……ん……、牛タン……ふふふ……」
「………………俺はやはり早まったのか……」
自由の怪しげな寝言を聞き、葉山は今してみせた自分の決心を早くも後悔する。
「葉山ぁぁーーー!!」
突然大きな声で叫ばれ、葉山はのんびりと浸かっていた湯船の中でギョッとした。
「風呂だよー!」と風呂場の外に向かって声を掛けるとドタバタと汚い足音を立てて自由がやって来た。その勢いのまま乱暴に風呂場のドアが開く。
血相を変えた自由が全裸で立っていたので、条件反射として葉山の目線はある場所に行かざるを得ない。
「ゆ、夢かっ……」
「…………は?」
「UFOがブワーって光出して、牛と一緒に葉山を連れて行こうとしてっ……」
「……また牛か……」と葉山は内心落胆する。
「俺が宇宙人より先に牛タンを食いまくったせいでそれの恨みか何かかと……」
「――寒いからドア閉めてくんないかな? あとまだその話は続くの?」
自由はそのまま葉山のいる湯船に大人しく一緒に浸かった。
向かい合って座った自由はあからさまに照れている様子で、落ち着かないのか視線が泳いでいた。それを見て葉山がくすりと小さく笑うと自由は猫のように逆毛を立てて威嚇する。
「なんだよっ!」
「……いや、一緒にお風呂とか、恋人っぽいなーって」
「ぽいってアンタな!」
葉山は完全に自由をからかっている様子で湯船の中でわざとトントンと合図みたいに足の甲を踏みつける。
「やめろぉっ」と自由は足を引っ込める。
そのまま葉山がちょっかいを出せないようにぐるりと回って葉山に背中を預け、両手を取って自分の折り曲げた膝の上に固定した。その手を確かめるように撫でる仕草が葉山には可愛くて仕方ない。
頰に唇を寄せると自由は素直に横を向いてキスを受け入れた。触れるだけのかわいいキスに「恥ずかしい!!」と自由はとうとうその空気に赤面して白旗を上げた。
葉山は声をあげて大笑いしながら照れて顔を隠す自由の後ろから全身を包むように抱きしめると、自由も大人しく抱かれていた。
「自由」
「なに……」
「……お前といると楽しいよ」
あまりにも直球に葉山が告げるので自由は一瞬大きな茶色の瞳を見開いて、すぐに頰を濃い朱色に染めた。そしてぐるりと身体を反転させ自ら葉山に抱きつくと、照れた顔を見られないように肩に沈めた。
「――アンタはムカつく!」
「何だよもっといいコト言えよ」
「やだね!」
「ふーん、あっそ」
葉山は意地悪くそう告げると自由の小さな頭を両手で抱え、赤い顔のそこらじゅうにキスして回った。
「やめっ、やめろっ! 恥ずかしい!!」
しばらくの間自由は、葉山の求愛攻撃から逃れることが出来ずに羞恥でヘトヘトになるまで喚き続けることとなる。
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