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track.17

「葉山……なぁ、あの、俺が口出すことじゃないかもだけど……さっきのって……」    迷いながら話す自由の横に葉山は力無く腰掛ける。自由は持っていたマグカップをヘッドボードに置き、葉山の手を不安げに握る。 「……死んだ妹は桜──椿の双子の姉だ」 「双子……」 「桜は──家族で唯一俺の性指向を理解してくれてた──。両親は俺のことでお互いを責めてはいつも喧嘩してたよ……」  どこか遠く一点を見つめながら話す葉山にいつもの強さは全く感じない──。 「桜は──桜の盗作は俺のせいなんだ……」 「えっ?」 「……俺の同級生に業界関係の奴がいて、桜を売り込むつもりが──曲だけ盗られて……そいつには知らん顔されて……。俺と桜は相手側を提訴した。だけど、そいつは反省するどころか逆に桜を脅した……」 「脅した……?」 「……ホモの兄貴がいる新人歌手ってのも話題になっていいかもなって……。桜は──俺や家族を巻き込みたくなくて……ひとりで……俺、は……」  葉山の頭の中で鮮明に恐ろしい過去が蘇るのか、語尾が次第に途切れて弱々しくなっていく。  触れてはいけない場所に触れてしまったと自由はすぐに後悔した。 「葉山っもういい! ごめんっもういいよ!」  その続きを聞きたくない。  葉山にこれ以上残酷な言葉を言わせたくないと自由は心の底から必死に叫ぶ。 「──妹を殺した……」 「葉山違う! 違うってば!」  自由は葉山が初めて見せる弱さとその瞳から零れ落ちる儚い涙にひどく動揺して胸が切られるように痛んだ──。 「葉山違う、違うから! 葉山のせいじゃないよ!」  自由は必死に葉山の震える両肩を抱きながら温めるようにさする。  辛い想い出を蘇らせてまた葉山自身を傷付けさせてしまったと、軽率だった自分に自由は悔やんでも悔やみきれなかった。 「……自由……」  名を呼ばれ自由は濡れて弱々しく揺れる瞳の葉山と目が合う──。 「……嫌いになっても……いい、よ……。俺は自分を守りたくてお前に嘘をついた……」  葉山の大きな掌が自由の頬をゆっくりと撫でる。いつもは強く頼もしい掌だったのに、今は弱々しく震えていて、自由は涙がこみ上げて来るのを必死に堪えた。 「……嘘なんかじゃない──。生きてる間は戦える──。あれは嘘なんかじゃない、本当のことだ──」  自由は葉山の手を取り強く握りしめ、その胸に飛び込み自分より大きな身体を必死に内側から抱き締めた。 「葉山のせいじゃないから! 葉山が男しか好きじゃないことも! 妹さんが亡くなったことも! 違うよ! 責めなくていいよ、いいんだよ!」  自由は葉山と一緒に泣いてしまいたかった──。  小さな子供のように大声で泣き喚いてしまいたかった──。  だけど自分が泣いたらきっと葉山は余計に泣けなくなる、そんな気がして自由はひたすら唇を噛んで必死に湧き上がる涙を堪える。  抱き締めた身体は嗚咽を我慢しているのか、小刻みに震えていた──。力一杯抱き締めると葉山もゆっくりと抱き締め返してくれる。 ──桜さん……。  なんで死んだの──?  葉山にとって唯一の味方だったのに……。  葉山のこと恨んでた──? 憎んでた──?  葉山は今も、ずっとこんなにも苦しんでるよ──。  自由は少し身体を離して下から葉山の頬を両手で包み優しく微笑む。 「……葉山……」 「ん……?」 「葉山がもし──本当にひとりになっちゃうなら……俺のこと子供にして良いよ──。俺、葉山の家族になる──」 「…………っ」 「そしたらもう……葉山はひとりじゃないよ──。ね?」  葉山は自由の言葉に驚いたように目を見開くが、すぐに眉を下げて頷き、涙を流しながらも優しく穏やかに微笑んだ。  自由はその笑顔に少しだけホッとして、未だ震える葉山の唇に優しく口付けた──。  その日、自由は初めて葉山を儚くて繊細な、可愛い男だと感じた──。 ──ひと回りも上の大人なのに……子供みたいに葉山は笑って泣くから──  金も力もないのに漠然とこの男を守りたいと思った──。  この男と、  葉山と──  一生一緒にいたい──。

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