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bonus track.4
──自由の両親には許されないと思って覚悟していた。
自由が、俺と同じように本当の家族を失うことになったら、今度こそ誰にも永久に許して貰えないと思った──。
その時は自由と別れようと思っていた。
自由は元々ヘテロで年も若い、その上ようやくバンドが軌道に乗って、後は走り続けるだけなのだ。それを奪う権利も資格も、俺にはない。
一睡も出来ずに自由の両親と対面した時、思った通り二人は渋い顔をしていた。当然のことだが、俺の来訪にあからさまな困惑を隠せないでいた。
受け入れられない時はきちんと謝罪して、身を引こうと、本当は、前から決めていた。
だから最後に、自由の顔を少しでも長く見ていたくて、前の夜は全然眠れなかった。
だけど、自由は当然のような顔をして両親に宣言した。
「俺、葉山さんの家族なります。俺はもう成人しているので二人が反対したとしても従いません。親不孝と思うなら思って貰っても構いません。バンドで生きていくって、この家を出た時から親不孝だったとは思いますが、今まで育ててくれて本当にありがとうございました。お姉ちゃんの家族たちと末長く、仲良く元気で暮らしてください」
自由は普段とは別人みたいに静かに淡々と、一気に話し切ると、最後に深く頭を下げた。
全部言い終えた自由は、憑き物が落ちたように爽快な表情で「よし、言えた」と自己満足していた。
──俺はその間、何も言えなかった。
俺は自由の覚悟を、自由の想いを、なぜ信じていなかったのだろうかと自分を酷く恥じた──。
俯いて、正座した膝の上で自分の手をきつく握りしめると、自由はその上から優しく包んでくれた。
自由は笑ってくれた──。
大丈夫だよと、笑ってくれた──。
きっと俺は、今にも泣きそうな顔をしていたのだろう。
ずっと無い物みたいに扱っていた自分の心が急に熱を帯び、乾いた土に水が一気に染み渡るように、自由の大きな愛情が、俺の渇きをあっという間に癒していく。
たくさんは無理だとしても、自由だけを、自由だけは守っていこうと、強く思った──。
区役所でパートナーシップ証明書を受け取った時、もう自分は一人じゃないんだと、同性である自由を愛することを他人の誰かに初めて、それは決して間違いじゃないと、許して貰えた気がした──。
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