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bonus track.5

「誠一郎……? 泣いてるの?」  浴槽の中で自分を抱きしめたまま動かなくなった葉山に、自由が心配そうに声を掛けた。 「ううん、ちょっと逆上せただけ……続きはベッドでしよう」  ピンク色の首筋に唇を寄せて葉山は囁いた。くすぐったそうに自由の肩がピクリと跳ねる。 「いい、よ。けど……すぐしちゃダメだよっ」 「うーん。──それは、わかんない」 「なんでッ!」  嘆く自由を気にも留めず、葉山は浴槽から自由を連れ出しシャワーで身体に付いたものを一気に流した。  わざと起き上がり掛けてる場所にシャワーを当てたらグーで殴られた。  バスローブで自由を包むと「髪はしっかり拭きなね」と言い残し、一度脱衣所から姿を消した。自由が大人しく髪を乾かしているとグラスを片手に葉山が戻って来た。 「大丈夫? 逆上せたよな、ごめん」 「ありがとう」と、自由は素直に受け取り、ゴクゴクとなかなかの勢いで美味そうに飲んだ。どうやら本当に逆上せ掛けていたようだ。 「プハァ〜。はい、誠一郎も飲んで、水」  自由からグラスを受け取ると、葉山はゆっくりと口をつけた。その頭を自由が拭いてやる。葉山は小さな子供のようにされるがままだった。  さっきまでは理性など、どこかに飛ばし切って獣のようだった男は、既に冷静さを取り戻している。自由は葉山の極端なギャップに若干慄いていた。 「──誠一郎、もっといい加減になりなね」  何のことか分からず、葉山は目を瞬く。 「誠一郎はこれからも仕事柄、他人に気を遣って生きていくでしょ? だから、他人じゃない俺には気を遣わなくて良い。家族なんだから、ね?」 「──かぞ、く……」 「そ! 俺たちは家族なんでーす! 身内なんです! 遠慮しなーい! はい、誠一郎! 抱っこして!」 「早速かっ」 「はーやーく!」    両腕を広げて「早く早く」と自由は小さい子供のように身体を揺する。  ハーッと葉山は大きな溜め息をつくと、我儘な伴侶をいきなり肩に担いだ。 「ワアッ!! ちょっと! ナニコレ! 色気ないんですけど!」 「お前にそんなモノ必要でしたかねー」 「なぁにをー! こんなピチピチ男子を捕まえといて失礼なーっ!!」  肩の上で自由は両足をバタつかせ、葉山の背中を拳でパカパカと殴る。 「暴れんなっ、落としても知らないぞ、ピチピチ男子!」  それこそ色気も何もない。ギャーギャー喚く自由は荷物の如く葉山に運搬され、ふたりのベッドに半ば投げるように降ろされた。 「ちょっと、アンタ! 愛、愛が足りないんじゃないの! もう少し優しっ……」  文句を言いたい相手の顔はすぐ傍にあって、睫毛が自由の頬を掠めた。あまりに近過ぎた瞳が少し離れて、ようやく目線が合わさる。 「──愛、足りなかったか?」と葉山は意地悪く笑う。  自由はその笑顔が嫌いだった。  ひとまわりも年上の男は、自分がいないとダメだと嘆くくせに、本当のところ、逆なのではないかと自由に思わせる威力があるからだ。  そこまでが、この男の弄した策に思えてきてしまう──。  拗ねたような顔で自由は葉山に正面から抱きついた。 「俺──我儘だよな。もっともっと音楽してたいって思う反面、もっとずっと、誠一郎と一緒にいたいって思うんだ。そんな我儘許されないのに……」 「なんで? お前は誰に許されたいの?」  自由はその言葉に弾かれたように顔をあげ、葉山を見た。 「人間として普通だろ? どっちか片方しか選べないなんてルールないんだから、お前が俺といたいと思ってくれてるなら俺はそれだけで嬉しいし、実行に移さないなら信じない──なんて、聞き分けのないことは言わないよ」 「いい、の……? このままで、俺いても……」 「何が? お前は俺の家族なんだろ? 気を遣うなって言ってくれたのはお前じゃないか」 「それは……誠一郎が俺に無条件に優しいから……」 「馬鹿だね、お前は。お前自身が自分の優しさに気づいてないなんて、勿体無さ過ぎるよ」  俯いて話す自由の身体を包み込むように抱き返して、額や瞼に口付ける。自由の目尻が少しだけ赤い。 「誠一郎……、ずっと、一緒にいてね」 「うん。いるよ。俺はお前が嫌がるまで離さないよ」 「またそんな捻くれた言い方する……、そんな日は来ないから」 「だといいな──」  怒るよ! と自由は葉山の鼻の先を軽く噛んだ。  そのまま抱き合ってベッドへ寝転ぶ。一番近くまで行きたくて、自由は両足を葉山の足に絡ませ、首筋を甘噛んだ。葉山はくすぐったいらしく、ずっと笑っていた。  痺れを切らしたみたいに自由が葉山の雄を握った。 「痛いよっ、自由」 「早くー、しようよー、ね? 早くコレ欲しい」 「自由ちゃんのえっち」 「ホント、アンタ犯すからね!!」  ギャーギャー喚きながら自由は言葉通り葉山のバスローブをサッサと脱がしていく。こわい、こわい、と葉山は冗談ぽく、また笑っている。

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