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bonus track.7

「一回りスか、いやぁー、すげぇわ〜、さすが所長だわー、俺には真似出来ないっすよ」 「いやいや、誰もアンタにはそんなこと期待してないから」 「ちょっと! 酷くないスか!!」  葉山一級建築士事務所では、ボスの留守の間に、同僚たちはボスが捕まえた若いパートナーの話で持ちきりだった。  女性社員が見抜いた通り、美岡が所長のデスクの上に飾ったツーショット写真に気付いたのは飾られてすでに2週間以上は経った頃だった。  さらにそれがバンドのボーカルをしている芸能人だと気付いたのもそこから一時間は掛かった。 「なんか、俺、所長は誰か一人のものになるってイメージなかったんスよねー、束縛とか嫌いそうっていうか、自由人! て感じがして」 「所長が言うには相手の子は所長以上に自由人らしいわよ。もう、全然掴めないって。宇宙人みたいだって」 「それは年の差のせいですよー!!」  美岡がゲラゲラと大笑いしたその時に、蛇のような形相の男と目があった。 「悪かったな、オッサンで──」 「所長!! お帰りなさい!!!! コーヒー!! コーヒー飲むっすよね?! 俺、淹れます!!」  美岡はバタバタと慌てて落ちるように椅子から立ち上がり、コーヒーメーカーに手を伸ばした。 「いや、いいや。日本茶で」 「へっ……」  いつもなら机の上に出すであろうタバコも今日は登場しなかった。  同僚たちは「ああ〜」と何に納得したのか各々が頷いていた。 「なに、なんだよ?!」  葉山は完全に仲間外れだ。 「うん、うん。そーなんだ、マジで? うん。俺も、寂しい……。ごはん? うーん、親子丼食べたい。うん、そう、卵ふわふわのやつ。うん、楽しみにしてる、じゃあね、うん、おやすみ」  ライブ会場からホテルへの移動の途中、自由はメンバー相手には絶対に出さないであろう声色を出し、メンバーの安眠を妨害した。寝たふりをした者もいれば、ジトっと睨む者もいた。後者は一番長い付き合いの要だ。 「なぁにが、さみしーだ。一昨日会ったばっかだろ!」 「うるさいなー、こちとら新婚よー!」 「そーいうのは俺らがいないところで、こっそりひっそりやれ! 鳥肌モンだ!」 「えー、この間、瑛海(えいみ)も赤ちゃん言葉みたいに電話の相手とイチャイチャしてたよー?」 「誰が赤ちゃん言葉だ! この野郎!!」  狸寝入りしていた瑛海が飛び起きて憤慨した。 「俺、知ってるんだからね。瑛海、同棲してるだろ!」 「えっ、そうなの?! 知らなかった」  要だけがひとり驚いていた。 「してねーわ、ありゃルームシェアだよ! 同棲なんてそんなピンクな名前じゃねぇわ」 「ふーん、へぇー、そおー」と嫌味たらしく自由は瑛海に告げた。 「へーちゃんが言ってたよ、この間瑛海の事起こしたら、あと五分〜って抱きつかれたって、瑛海はルームシェア相手に普段から抱きついてんだねー、ふーん、そおー」 「……あ、俺、すげぇ眠い! 寝る!」  バタン! と瑛海はいきなりシートに倒れこんで、嘘くさいいびきを掻き出した。「ばかたれ!」と自由がその膝を叩いた。 「まあ、でも、良かったよ。相手が葉山さんで」  要はしみじみと告げる。 「なに、急に」 「ほら、お前メンタル弱いからさ、あれくらい余裕のある大人相手じゃないと共倒れしそうだからさ。何言ってもハイハイって聞いてくれる相手じゃないとな、お前の相手は務まらないよ」  ブブッと狸寝入りした瑛海が後ろで笑ったので、自由はまたその膝を殴り付けた。 「──まぁ、知り合った時はとんでもねーゲス野郎だと思ってたけどね、けど……あの時、誠一郎に拾ってもらわなかったら、俺は多分、今頃ちゃんと歌えなかったと思う。俺だけじゃ、感情の乗り越え方がわかんなくて……」 「せいぜい末長くお幸せにー」 「なに、そのせいぜいって! 余計じゃね?」 「そんな出会った時のことを思い出しながらモジモジしてるお前なんか見てて楽しくもなんともねーからな、家に帰ってから葉山さんの前でだけでやってくれ、じゃあな、おやすみ!」  要は上着を頭のてっぺんまで被ってシートに横になり、膨れた顔の自由だけが薄暗い車内でポツンと残った。  明日の公演が終われば家に帰れる。  楽しかったことも、上手くいかなかったことも、全部、いつものように聞いてもらおう。  美味しいご飯を作りながら、どんなことでもニコニコしながらきっと聞いてくれるはず──。  誠一郎に早く会いたい。良い匂いのするあの身体でいつもみたいにぎゅっと抱きしめて欲しい。  まどろみの中、一緒の布団でゆっくり眠りたい。 「明日のライブも頑張ろー!!」  突然、拳を上げて叫んだ自由はメンバー全員から怒鳴られた。パコンと投げられたティッシュ箱が頭に当たって、ひとりいじける。  そのまま、のそのそとシートに凭れかかってブランケットを頭まで被って大人しくする。 「おやすみ、誠一郎……」  今度はひっそりと誰にも聞こえないようにそうつぶやいて瞼を閉じた──。 ♪ fin ♪  

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