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ひょこっと顔を出したのは、長身の男子生徒。
そいつの栗色のくせ毛が風にふわりとゆれた。
眩しかったらしく、目を瞬かせている。
スリッパの色が青いところを見ると同級生のようだ。
「あ、いたいた!鳥羽くん!」
俺と目が合うと人懐こそうな笑顔を浮かべて近寄ってくる。
(は、何?てか誰。)
ふと気づく。
あ、やばい。
イヤホンしてない。
慌ててポケットからイヤホンを出し、耳に突っ込む。
スマホを取り出して、早く再生ボタンを
「はい、残念!」
の、前にあっさりスマホを奪われた。
その拍子に耳からイヤホンが抜け落ちる。
何だこいつ。
なんとなく見たことがある。
たしか同じクラスのやたら目立つ集団の中のリーダーっぽいやつだ。
「うわっ、画面バキバキじゃん。」
わざとらしく顔を顰めるそいつは、何故か当たり前のように俺の横に腰を下ろした。
柔軟剤の匂いが鼻をかすめる。
いや、何なんだ。
めんどくさいから早いうちに逃げよう。
俺はそいつの手からスマホを奪い取ると、立ち上がった。
「あれ、教室戻んの?」
その問いかけを綺麗に無視してドアに向かう。
「え〜待ってよ、鳥羽くん」
パタパタと後ろから追いかけてくる足音が聞こえる。
それから逃げるように、半ば急ぎ足で校舎に入る。
屋上への立入禁止のテープをまたいで、階段を下りながらイヤホンをつける。
再生ボタンを今度こそ押して、流れ出したお気に入りの曲にほっとした。
スラックスのポケットに手を突っ込んで、そのまま階段を一気に下りるーー
ズルッ
(あ、やべぇ。)
足を踏み外した。
ぎゅっと心臓に嫌な緊張が走る。
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