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「おっと、」
後ろから長い腕が伸びてきて、俺を支えた。
背中に触れる他人の熱。
シャツの擦れる音が鮮明に耳に響いて、
(あ、、、)
腹に回された腕が目に映り、悪寒が走る。
ヒュ、と喉がなって、気づいたら思いっきりそいつを突き飛ばしていた。
「いって!」
段差に尻もちをついたそいつはぱちくりと目を瞬かせた。
脱げた片方のスリッパが踊り場まで落ちていく。
我にかえって謝ろうと口を開くが、声が出ないから黙ってそのまま目を逸らす。
(しまった……)
とりあえずスリッパを拾いに降りる。
『御波 萌志』
スリッパに書かれた名前をなんとなく眺めてから、まだ尻もちをついている御波にスリッパを投げる。
それを御波が片手でキャッチした。
「あ、サンキュー」
いや、無視された挙句、助けたのに突き飛ばされといて礼言ってんなよ。
(へんなやつ)
俺はそのまま足早に階段をあとにした。
1階の中庭を横切りながら、ふと思う。
そういえばなんであいつ屋上に来たんだろう。
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