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5 始まりー御波 萌志ー
「ただ今戻りました〜」
教室の後扉を勢い良く開けて教室に入った。
クラスメイトが待ってました!とでもいうように沸く。
国語担当の岩セン(岩田先生)も板書の手を止めて振り返った。
「お、御波ー………あ~やっぱりだめだったか。」
岩センは俺の後ろに視線を彷徨わせたあと、苦笑いを浮かべる。
だめだったか、というのは。
午後の授業が始まっても埋まらない、窓際後ろから二番目の席。
鳥羽暁の席だ。
この2年3組委員長の俺に、彼を探して連れてくるよう岩センが指示したのだ。
「はい〜もう秒で振られました!」
萌志、ダサーいwとクラスメイトの女子たちがケラケラ笑う。
うるさいよ、と厳つい顔を作りながら自分の席に向かう。
席につくと前に座っている烏丸が振り返った。
周りも興味津々に俺を見ている。
「で、どうだった?!」
「え、何が?」
「だから!声だよ、声!」
「あぁ。うん、一言も話してくれなかったよ。」
そうかぁ〜と烏丸が残念そうに呻く。
すると今度は斜め後ろに座る渡貫が、
「イケメン委員長様にも一言も喋らないなんてあいつやべーな!」
「萌志にニッコリされたら俺なら秒で喋るわw」
「いやん、烏丸ったらまじキモすぎ笑」
「黙れぽんぽこ♡」
「んだと、このカラス!!」
「おい、うるさいぞアニマルズ!」
岩センの一括にクラスが笑いに包まれる。
アニマルズというのは俺の友人であるこの二人、烏丸と渡貫。
からす、ま。
わ、たぬき。
カラスとたぬきだ。
そこでアニマルズになるわけだ。
はは、と俺も笑いながら、机の上に教材を放り出す。
そして、チラっと空っぽの彼の席を振り返った。
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