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そう、誰も彼の『声』を知らない。
もちろん俺もその一人だ。
高校生活が始まって、2年目に突入した。
俺は初めて彼と同じクラスになった。
そんなクラスも、もうすぐ1ヶ月がたとうとしている。
鳥羽暁。
授業はサボりがちで、イベント事には絶対顔を出さない。
学校に来たと思えば、顔や腕には傷跡やあざ。
言わば、不良と称される生徒。
刈り上げられた襟足とツーブロック。
幾つも開いているピアス。
着崩された制服から仄かに香る煙草の匂い。
ただ、彼が入学当時から有名だったのは不良だったからだけではない。
1つ目は、言葉を一言も発さないこと。
いつも耳にはイヤホンが突っ込まれていて、完全に周りの音をシャットアウト。
たとえ話しかけても、さっきの俺同様にみーんな無視だ。
目も合わさなければ、他の不良たちのように舌打ちして凄んだりもしない。
ただ、常に近寄るなオーラが剥き出しだ。
2つ目は、その容貌だった。
中性的な顔立ちは、男の俺が見ても
おぉーってなる。(いや、語彙力。)
長い睫毛。きれいな二重に切れ長の目。
いつもきゅっと結ばれた形の良い唇。
傷んでない黒髪はくせ毛の俺からしてみればめちゃくちゃ羨ましいストレート。
(イケメンというより……美人?)
それだ!と心の中で自分に同意しながら
とりあえず板書を写していく。
チョークとシャーペンの音が響く教室で俺はさらに思いを巡らせる。
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