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これだけ目立っていれば、色々彼に関する噂はたつもので。 喋らないのは実はめちゃくちゃ声が高くてコンプレックスだからだ、とか 束縛の激しい恋人に他人との会話を一言一句禁止されている、とか。 まぁ、噂はあくまでも噂に過ぎないから信じてないけど。 ふと、シャーペンを握った己の手を見下ろす。 (細かったな、あいつ。) 階段で足を踏み外した彼を咄嗟に抱きとめた。 あの時、「は?!軽っ!」って驚いた。 片手で抱きとめられる男ってどんな男だよ。 そんなに小柄ではなかった。 突き飛ばした力は強かったけど。 思いっきりついた尻が今も若干痛い。 それに階段の角がゴリッと背骨にめり込んだからな。 それよりも、苦しそうに歪められた彼の顔が頭を離れない。 見惚れて立ち上がるのを忘れてたくらいだ。 (ん、待てよ。) 見惚れたってなんだ。 いやいや、と軽く頭を振ってまた板書を写し始める。 でもすぐにまたペン先が止まった。 (あれ、もしかして。鳥羽くんって俺がクラスメイトって気づいてないんじゃね?!) もしそうなら俺ただの怪しいやつじゃん! 名前も知らない奴にいきなり話しかけられるわ、追いかけられるわ、抱きとめられるわ。 (そりゃ突き飛ばしたくもなるだろ…!) あの歪んだ顔はきっとドン引きな顔だったに違いない。 「おーい御波、百面相すんな〜集中しろ!!」 岩センの声に我にかえる。 「ふ、振られたショックが思いの外でかくて!!!」 クラスはまた笑いに包まれた。

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