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8 星屑ーほしくずー

中庭を横切って向かった、体育館裏。 壁に寄りかかって紫煙をくゆらせる。 のぼっていく煙をぼんやりと目で追う。 (み、なみ…みなみ…………あれ、下なんて読むんだ?) さっき見たあいつの名前を思い出す。 萌ゆる志、で萌志。 御波萌志。 何故か、屋上の扉から顔をのぞかせたときのやつのくせ毛が頭に浮かぶ。 ふわって風を孕んで揺れてた。 日光を浴びて星屑みたいに瞬いてたあれ。 チカチカ、きらきら。 眩しかった。 人懐こいあの笑顔も。 無意識に自分の頬に手をやる。 (笑顔なんて。) いつから浮かべてないだろう。 喉も表情もあの日から錆びついて。 明るい感情なんか忘れてしまったのか。 笑い方なんてもう忘れてしまったのか。 この身体は。 タバコを持っていない方の手で肩を抱く。 男に犯され、汚された。 その事実に気が狂いそうになる。 生々しく刻まれたあの記憶が思考回路をショートさせる。 鮮明に脳内に繰り返し再生される一部始終。 気を抜いたら、自分で自分をめちゃくちゃに傷つけたくなってしまう。 幼さ故に抗えなかった悔しさに叫んで、 犯人への怒りに吼えて。 でも喉は、それをただの掠れた空気音に変えるだけで、それが虚しくてまた悔しくて。 (でも、あれは、あれは俺のせいじゃない……。) でも何かに当たらないと自分を保ってやれなかった。 その結果がこれだ。 暴力に明け暮れて、人との距離は広がるばかり。 手のひらの中で体が震えた。 肩に爪が食い込む。 ぎゅっと目を瞑った。 まぶたの裏で、青空の下のあの星屑が散った。

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