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11 玲瓏ーれいろうー
「んーーーー…………」
俺の呻き声にスマホから目の前の二人が同時にその同じ顔を上げる。
「さっきから何?」
これが妹の御波真昼。
「んーんーうるさいんだけど。」
これが弟の御波帆志。
彼らは一卵性双生児。
中学3年生にもなると帆志のほうがデカくなってしまっているが
昔はまじでそっくりだった。
真昼も帆志と同様に俺のお下がりを着ていたから、二人はかわいい双子の男の子と間違われることも多く。
小学生の頃はいわゆる「入れ替わり」にハマっていた時期があって、
「これがホントの昼夜逆転」とか言ってキャッキャしてた。
(真昼の昼、帆志と星をかけて夜。)
帆志は若干反抗期っぽいけど
それでもやっぱり妹と弟はいつまでたってもかわいい。
まぁ、そんなことはおいといて。
「いや、ね。クラスにな、」
「「何?!好きな子?!」」
「最後まで聞けーお兄ちゃんの話をー」
早とちりしてダイニングテーブルの反対側から身を乗り出してくる双子をどーどーとなだめる。
仕切り直しの咳払いをしてから、
「クラスに一匹狼的なやつがいて、」
「「ほうほう」」
「誰とも馴れ合わなくて、いっつも耳にイヤホン突っ込んでんの。」
「「それで?」」
いちいちハモってくるこいつらは真面目に聞く気あんのかな………
まーいいや。
「今日、初めて接する機会があったんだけど全部無視されちゃってさ。」
「「いや、嫌われてんじゃん」」
「そこはハモらなくていい!!!」
頭を抱えて悶える俺に真昼が追い打ちをかける。
「イヤホンしてるってことは話しかけられたくないってことでしょ?わざわざそうやって自分から人を遠ざけてる人に話しかける意味がわかんないな~」
「いや、そうなんだけど。そうなんだけどね?」
もう泣きそう。
すると今度は帆志が、
「なんで兄ちゃんはその人に話しかけんの?委員長だから?」
「いや………」
確かに。
俺、話しかけるとき、
「俺は委員長だから」なんて欠片も考えてなかった。
「……多分、単純に話してみたかったんだよ。」
苦笑しながら頬杖をつく。
最後に俺がばいばいって言ったときは、ちゃんと目があった。
夕日で細められ、綺麗に澄んだ双眸が俺を捉えたあの一瞬。
本当に一瞬だったけど。
「その人が喋ったところ見たことなくてさ。ちょっと怖いところもあるけど、話したことないくせに遠ざける気にもならなくて。もう1ヶ月経つけど、折角同じクラスになれたんだし、ほんと、ただ純粋にどんな人なのか知りたいーーーーって………何?」
静かだと思って顔を上げれば、双子はニヤニヤしながら俺をみている。
「「別に~??」」
嫌な予感。
「ただ?」「純粋に?」「お兄ちゃんが?」「その人の事を?」
「「気になってるんだな~って!」」
いや、仲良しか。
じゃなくて、なんでこいつら人の悩みを茶化して面白がってんだ。
「いや、気になってるっていうか。まぁそうなんだけど、お前らなんか勘違いしてない??」
こいつらが期待してるのはつまりはこういうことだろう。
「好きだから気になるとかそういうことじゃないからね?そいつ男だし。」
「「………………なぁーーんだぁ~………」」
俺の言葉にみるみる双子はテンションが下がっていく。
真昼は中学生女子だし、コイバナとか好きなんだろうけど
帆志、お前はなんでそんなに真昼よりも落ち込んでんだ。
興醒めだという風にため息をつきながら、真昼が席を立つ。
そして部屋に戻り際、
「お兄ちゃん。」
「ん?」
「そんなに話したいならさ、話しかけんなって拒絶されるまで話しかけてみれば?」
「えぇ~………」
「意外と折れてくれるかもよ」
にっこり笑って退散していく妹を見送る。
くれるならもっとまともなアドバイスがほしい。
そんな風に折れてくれるようには見えないけどな、鳥羽くん。
拒絶されたくないけど、もっと彼のことを知りたいと思うのも事実で。
(他人が嫌いっていう理由で遠ざけてるように見えないんだよなぁ……)
俺の勘違いかもしれないけど。
あの屋上で
慌ててイヤホンに手を伸ばした彼。
まるでそうしなくてはいけないという様な、そんな表情だった。
(鳥羽くん。)
明日おはようって言ったら、また目を合わせてくれるだろうか。
(って何期待してんだ。)
俺は小さく笑ってため息をついた。
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