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20 告白ーこくはくー

そう決断して2日後。 「じゃ、よろしく頼むわ~!」 そう言って教室を出ていった深山。 そしてぽつんと取り残された俺と御波。 (ざっけんな、あいつ…!!) 明後日授業で使うらしいプリントの仕分けを押し付けられた。 1枚目、2枚目を重ねて一部としてクラスの人数分作れ、という。 俺はこの前、授業をサボったから。 御波は委員長だから。 そういう理由で押し付けられた。 でもあいつ、出ていくときニヤッとしやがった。 クソムカつく。 余計なお世話だっての。 御波だって、ほら。 気まずそうな顔してる。 まぁそうさせたのは俺なんだけど。 もういい。 御波に押し付けて帰れないし このまま突っ立っとくわけにもいかない。 俺はくっつけられた机に腰を下ろすと、プリントを手に取った。 ………が、 「いいよ、鳥羽くん。俺やっとくからさ、帰りなよ。」 手を止めて、視線を御波に向ける。 「…………、」 笑っているけど、寂しそうな。 ふにゃっとしたその笑顔は、屋上で見たあの顔とも挨拶してくれたときのあの顔とも違う。 俺を安心させるための作られた笑顔。 それくらい俺にだってわかる。 (傷つけてたんだ。) 俺が傷つきたくないから。 こうやって気を使わせて無理やり笑顔を作らせてしまった。 ごめん。 御波。 ごめんな。 御波は何も悪くないのに。 何も知らないのに勝手に避けて、傷つけた。 俺は俺のことしか考えてない。 逃げてばっかりでこいつの歩みよりも跳ね返して。 最低だよな。 もう、傷つけないから。 (…………よし。) 俺は息をゆっくり吐いてスマホに手を伸ばす。 ちょっとまって、という意味のジェスチャーを御波に向ける。 困惑を含んだ曖昧な返事を御波がした。 そして俺はゆっくり、文字を打っていく。 『御波、初めまして。』 『鳥羽暁です。』 『俺は多分周りから見たら、すごい無愛想で一言も喋らない嫌なやつだと思う。』 『でもそれには理由があって、俺、失声症っていって声が出ない。』 『でもそれを周りにバレたくなくて、いっつもイヤホン突っ込んで、話しかけられたら無視して聞こえないふりしてんだ。』 『無視してごめん。』 『あの日呼びに来てくれて、助けてくれて、おはようって言ってくれて』 『ありがとう』 『嬉しかった。』 吐く息が、スマホを打つ指が、震える。 自らカミングアウトするのは初めてだから。 スマホを祈るように握りしめ、御波に差し出す。 「…………何、見ていいの?」 俺は頷いた。 視線を足元に落とす。 静まりかえった教室に時計の秒針の音だけが響く。 (怖い。) 心臓がうるさい。 もう早く終われ。終わってくれ。 『あ、そうなんだ。』とか『これからはもう話しかけないね』とか それだけでいい。 手の先がどんどん冷たくなっていく。 「……………鳥羽くん。」 (………きた。) そっと顔をあげる。 でも目は見れない。 御波の襟元に視線を彷徨わせる。 もう何を言われてもいい。 早く終われ。早く終われ。 お願いだ。 俺は弱虫だ。 結局、強くなったんじゃなくて逃げてただけだったんだ。 御波が息を吸う音が聞こえた。 思わずぎゅっと目を瞑った

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