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27 望外ーぼうがいー

鳥羽が俺におずおずと手を伸ばす。 躊躇して、引っ込めかけて、 それでもまた手を伸ばす。 眉間にシワがよっている。 緊張と集中で力が入り、握りしめた手のせいで 持ってるおにぎりから鮭が飛び出していったのを多分鳥羽は気づいていない。 どんまい。 具のなくなったおにぎりはスポンジのないスポンジケーキみたいなもんだ(?) まぁそれは置いといて。 本当に苦手なんだな。 いや、苦手というよりほぼ無理に近いんじゃ?? でもここでやめたらどんどん後回しになりそうだし… かなりの強硬手段だけど鳥羽も同意してるし大丈夫。 まだ迷いが滲む鳥羽の目を見つめる。 それを縁取る長いまつげが微かに震えている。 あ。また目元が染まってる。 泣きそう、なのかな。 んー流石にそれはかわいそうか? そう思った俺は口を開く。 「ごめん。やっぱやめとくか。」 俺の言葉に鳥羽は一瞬安堵の表情を浮かべたけどすぐに首を横に振る。 耳にかかっていた髪の毛がスルリと落ちる。 それをもう一度耳にかけ、大きく深呼吸してまた俺に手を伸ばしてくる。 (えぇー、何今の………超かわいー…………ん?) かわいい?? いやいや。いやいやいや。 何考えてんだ。 ちょっと思いかけただけだし、首の振り方が駄々っ子みたいで いつもとのギャップに新鮮さ感じただけだし。 そうそう。 そうこう思っているうちに鳥羽の指先が俺の指先に触れる。 (あ、触った。) すぐ離れるかなーと思ったら、そのまま止まっている。 指先が冷たい。 見れば息もちょっとあがっている。 無理しないで、と声をかけようとした。 でもその声は喉の奥で止まる。 (………え。) 鳥羽の指先が俺の指の腹を滑っていく。 思わず喉が嚥下した。 第一関節、第二関節、とゆっくりと降りてくる。 指の付け根に届いた指先は、今度は少し反って俺の手のひらに重なっていく。 そして手と手が完全に重なって止まった。 俺も緊張でその一部始終をガン見してしまった。 チラッと鳥羽を窺えば、彼もまじまじと重なった手を見つめている。 ちょっと嬉しそう? 強張った表情がちょっと緩んで見える。 「触れたな、頑張ったじゃん」 ちょっと名残惜しいけど鳥羽の手のひらから離れる。 視線をあげた彼に笑いかけた。 「やっとスタートラインに立てたって感じ?」 ゆっくりでいい。 鳥羽が人との触れ合いに慣れていければ。 その嫌悪感をちょっとでも薄められたら。 ぽかんとしてた鳥羽がおもむろに口を開いた。 『あ』 『り』 『が』 『と』 『う』 鳥羽の口がそう動いた。 吃驚した。 本人も照れ臭そう。 いつも一文字に固く結ばれた口がゆっくり動いた。 心臓がギュンと音を立てた気がした。 (……?いてて……) じわじわと喜びが込上げてくる。 ふわっと風が髪の毛を弄んで逃げていく。 鳥羽の黒髪がサラリとゆれる。 なんとも言えないこのムズムズする感じ。 嬉しい。すごく。いっぱい。 多分俺今すごいニヤニヤしてる。 「俺も嬉しい!!!ありがとうって言ってくれてありがとう!!!」 あ~なんかいい日だな。 もうこのまま放課後まで鳥羽と屋上でおしゃべりしてたい。 俺はあ~!!と叫んで後ろに倒れ込んだ。

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