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暖かい御波の手のひらが離れていく。
何もなくなった自分の手のひらが少し…
寂しい?のだろうか。
よくわからない。
でももうちょっと触っていたかった。
指先が触れるまで、自分がどう思うのかが心配で仕方なかった。
強い嫌悪感が襲ってきて御波を傷つけてしまうのではないか、と。
でもそれは杞憂に終わった。
御波の長い指を無意識に辿って、気づけばその手のひらに自分の手を滑り込ませていた。
自分でもびっくりしたんだ。
嫌な緊張が嘘みたいに消えていた。
ぴったり重なった手。
長くはなかったけどちゃんと触れ合った。
心臓がバクバクいっている。
遠慮がちに離れていった御波の指先を名残惜しいと思ってしまった。
御波は
「頑張ったじゃん」
って言った。
頑張った、とはちょっと違う気がする。
だって最後は無意識だったから。
触れるまでは頑張ってたけど、それからはもう違う。
御波に触れる。
怖くない。
冷え切っていたはずの心が息を吹き返したように震えた。
文字じゃ伝わらない。
だから、なんとか伝われと必死に口を動かす。
『ありがとう』
声は出ない。
喉も震えない。
御波は目を見張った。
伝われ。
そう願いを込めて紡いだ言葉は
どうやらうまく届いたらしい。
「ありがとうって言ってくれてありがとう‼」
すごく嬉しそうな顔をして倒れ込む御波を眺める。
感謝をして感謝されるなんて初めてだ。
御波と接すると苦しいと思っていた胸は嘘みたいに温かい。
多分大丈夫。
御波は全然気持ち悪くならない。
御波は気持ちよさそうに大の字に寝転がり、目を閉じてる。
ふわふわ。
キラキラ。
こんな穏やかな気持ちをくれた御波。
日向に連れ出してくれた御波。
暖かい、優しい。
ちょっとお節介なお日様インチョー。
ありがとう。
もう一度、心の中で呟いた。
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