29 / 138
29 泡沫ーうたかたー
5月末になり、梅雨がそろそろ来るかなという頃に入った。
GWは帰るのか、と母からLINeが来たけど
返信をしないままGWは明けていった。
あれから、毎日放課後に屋上で御波とリハビリをするようになった。
とは言ってもあのときと同じように手と手を重ねる、それだけだ。
前と違うのは片手だったのが両手になったこと。
向かい合って手を重ねるっていうのはなんか恥ずかしいから顔が険しくなってしまうんだが。
最初、御波はその俺の表情から心配をしたけど、今はもうそれが照れだと分かっている。
「やめろって~俺も照れるじゃん」とか言いながらニヤニヤしてやがる。
もちろん御波から触れてくることはない。
個人的にはもう一段階上に行けそうな気がする。
具体的には考えてないけど。
…………手を握ってみるとか?
いや、向かい合った男同士が手を握り合うって絵面的にどうなんだ。
最近は何だかサボる気になれなくて、授業に出ている。
深山にLINeで褒められた。
『御波効果か?』の一言には少し殴りたくなった。
今は5限目。
6限はないからそのまま放課後に入る。
あと30分。
もう学校には御波とのリハビリの為に来ているようなもんだ。
掃除はサボって先に屋上に向かう。
御波から『どこ?』ってきたから『屋上向かってる』と返した。
ポケットに突っ込んだ直後にスマホが震える。
『まじか。ごめん、なんか呼び出されて行くの遅れる!』
呼び出し?珍しいな。
少し曇ってきた空を仰いで返信をする。
『部活?どんくらいかかる?』
来た返信に一瞬戸惑う。
『いや、女の子に。』
あ、なるほど。告白か。
そうだ。御波も男だった。
今まで彼女もいたこともあるだろう。
『わかった。』
とだけ手早く打ってスマホを遠ざける。
バイブ音が聞こえたけど見なかった。
あいつも当然欲情するんだろう。
セックス大好きってふうには見えないけど
俺を襲ったやつも高校生だったから
欲に狂うんだろうか。
その女と付き合うのかな。
だったら俺とリハビリやってる暇なんてなくなるだろうな。
頭上を広がる曇天のように心も薄暗くなっていく。
頭が重い。
胸が軋むようにいたんだ。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!