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『遅くなるかもしれないけど、必ず行くから待ってて!』
そう来ていたLINeの通知を眺めて、そのまま電源を切る。
今頃、告白されてんのかな。
いや別に、御波が誰と付き合おうが俺には関係ないんだけど。
関係ないって分かってるのに。
小さい針で執拗に刺されてるような痛みを繰り返す、この胸は何なんだろう。
(寒い…………)
曇り空、冷たい風が頬をなでていく。
ぎゅっと両肩を抱いて膝に頭をつけた。
なんでなのか。
こんなにモヤモヤする。
簡単に言葉で気持ちを伝えられる奴らが羨ましいから?
御波を女に盗られるかも知れないから?
(ああ、そうかも。)
邪険にしても諦めず寄り添ってくれた、初めての相手をなくしたくないのか。
御波に依存しかけてる。
俺にはあいつしかいないけど
あいつにはいっぱい友だちがいて、いつかずっと一緒にいたい彼女もできて、
結婚して。
子供もできて。
そういう道を歩んでいくんだ。
俺にはない。
暖かい日の下に出過ぎたんだな。
もとの自分に戻れるんじゃないかなんて錯覚をしてしまったんだ。
幸福な思いをしすぎて、叶わなかったときに立ち直れる気がしない。
高望みしすぎた。
(……………………女々しすぎんだろ)
切り替えるように首を振って立ち上がる。
今まで通りに戻る。
ただ、それだけ。
扉の錆びついた音が心の軋む音に似ていた。
*
帰ろう。
そう思って教室までカバンを取りに来たのに。
何故か俺はそのまま椅子に座っていた。
(雨、振りそうだな。)
日光はもう届かない。
薄暗い教室に1人。
秒針の音だけやけに響いて、どんどん気分が沈んでいく。
あぁ、いやだ。
なんでこんなに体が重たいんだ。
天候を気にしてか、グラウンドにいる生徒も疎らで、ひっそりとしている。
いつもは教室に届くくらいの掛け声も今日は聞こえない。
気づけば、630。
1時間もぼんやりしてしまった。
ほんとに、ほんとにもう帰らないと。
飯もいらねぇ。
コンビニにもよらずにそのまま寮に帰ろう。
布団に今すぐ飛び込みたい。
立ち上がろうと前傾姿勢になる。
が、そのまま机に突っ伏してしまう。
額を硬い机にぶつけたけど気にならない。
なんだこれ。
ぐにゃぐにゃ。
力が入らない。
ああーイライラしてきた。
女々しいぞ、俺。
気持ちわりぃ。
足に力を込めてやっとの思いで立ち上がる。
それでもふらついた。
なんとか耐えて、扉に足を向ける。
そうだ、御波に帰るって言わないと。
電源をつけたら1件の通知が来てた。
『どこ?』
チラッと御波の席を見る。
カバンはない。
つまり取りに来ることはない。
時間的に部活も始まってるだろうし。
ここは適当に。
『もう寮だから』
よしよし、これでいい。
ゆっくり帰ろう。
雨に濡れても風呂に入ればいい。
嫌な気持ちも全部洗い流してしまおう。
大きく深呼吸して、俺は教室を出た。
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