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32 久遠ーくおんー

「……………………遅かったね、鳥羽くん」 そう言いながら、下駄箱に寄りかかっている長身の男子生徒。 暗がりでもわかるその顔は、そう、紛れもなく御波ご本人。 いつもよりトーンの低いその声を聞いて ピシリと俺はその場に凍りついた。 うっそ。 何でいんの??え、部活は?! 言葉こそ出せないけど、俺は内心めちゃめちゃ焦ってる。 うまく逃げれると思ったのに。 すでに地に埋まるほど落ちたテンションに加えて、心臓に嫌な緊張が走る。 あれ、これは………… こんな風に御波がちょっと怒ってるってことはつまり、 「ねぇ、なんで、嘘ついたの。」 ですよね。 どうやら嘘をつくのは御波にとって地雷らしい。 ゆらりと下駄箱を離れた御波はため息をつきながら、 固まって動けない俺の方に向かってくる。 「どこ?って聞いた時点で俺、下駄箱にいたんだよね……」 笑ってねぇ。 いつもニコニコふにゃふにゃの御波が笑ってねぇ。 (は?…こ、怖っ。) 御波のスリッパの音がパタ、パタ、とゆっくり近づいてくる。 正面、御波に塞がれた昇降口。 そして俺の左右には誰もいない廊下。 「ねぇ………何で、俺に、嘘ついたの?」 俯き加減だった御波の顔が俺に向けられる。 (うん。逃げよう。) いつもニコニコしているやつのキレたときはやばいってどっかの何かで読んだしな。 そんな呑気なことが頭をよぎるけど 次の瞬間、俺は素早く踵を返して逃げ出した。 * 「ふぅん………LINe無視した挙句、嘘ついた次は逃げるんだ……」 青ざめた顔をして、脱兎のごとく逃げ出した鳥羽。 告白してきた子のおかげですこぶる機嫌が悪い俺。 それに追い打ちをかけたのは鳥羽だ。 嘘ついたり誤魔化したり。 そういうことをやりがちなのはここ一ヶ月鳥羽の様子を見ていれば大体分かる。 あの顔はどう考えても「しまった!」って顔だ。 つまり、俺から逃げるつもりであのLINeを送ってきたってことだ。 なんで? 悪いけど、このまま、あ、逃げちゃったで済まさないから。 滑りそうになりながらも廊下の角を曲がっていく鳥羽めがけて俺は大きく一歩を踏み出した。

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