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振り始めた雨。
薄暗い廊下に響くその音をかき消すように走る俺。
たまにつんのめってコケそうになりながら御波から逃げる。
(くそ、スリッパ走りづれぇ!)
でも脱いだら靴下で、もっと厄介になりそうだし、だからといって靴下まで脱ぐ時間の余裕もない。
もっと言えば勇気もない。
怖くてなかなか振り返れないけど、さっきよりも着実に近くなってる。
………そう、御波の足音が。
(止まったら負け、止まったら負け!!)
自分に言い聞かせて走る。
ズレ落ちてくるカバンの紐がすごく邪魔。
投げ捨てたい衝動にかられるけど、この中にはスマホが入ってる。
スマホをどっかにやったら、喋れない俺の弁解の余地がなくなる。
捕まったときの言い訳が頭の中をかけ巡った。
言い訳①寮にいる夢を見たんだよ!
言い訳②寮にいたんだけど忘れ物取りに来て……
言い訳③ここが寮だろーが!馬鹿野郎忘れたのか!
って馬鹿は俺だ。
焦りで完全に思考がフザケてる。
逃げ出した時点で負けは確定しているってのに。
でも足が止まらない。
階段を駆け上がる。
息が上がって苦しくても御波から逃げることが最優先事項だ。
角を曲がる瞬間ちらっと後ろを見る。
(…………ヒッ)
結構逃げ回ってるはずなのに、疲れを見せず一段飛ばしで階段を登ってくる御波がうつる。
というか追いつくの早くね。
廊下一本分は差があったはずなのにもうすぐそこまで来ている。
こ、こえええええええー!!!
え、何、本気じゃねーか!!
こっわ!無理無理無理無理!
怯んだ俺のスピードが若干あがる。
もう後ろなんか振り返らない。
てかもう怖すぎて振り返れない。
優しいだけじゃなかった。
怒った御波超怖い。
いつもので喧嘩慣れしてるはずなのに。
怒った相手はゴマンと見てきたはずなのに。
俺の本能が"こいつはやばい"と告げている。
次の角を曲がったらどっかの階段で下に降りよう。
そう思って、無我夢中で前方に見えた角を曲がる。
が、しかし、
「………………っ」
見えるのは大きな窓。
冷水機。
続くと思っていたはずの廊下が
………………………無い。
(お、終わった…………っ)
どうやら行き止まりだったらしい。
絶望に襲われて俺は立ち止まる。
肩で息をしながら呆然と目の前の光景を眺めた。
そして気づいた。
追いかけてきていた足音が完全に消えていることに。
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