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35 灼熱ーしゃくねつー

ゆるりと御波が俺の腕をつかむ。 小さく体が震えた。 でも、それは嫌悪感じゃなくて なんだこれ。 嫌じゃないのに体が震える。 熱い。 芯から燻る熱。 俺の様子をチラッと確かめてから、御波がもう片方の腕も捉えた。 クンッと引っ張られて背中から壁が離れる。 もう御波との距離は数センチ。 (な、なんっ、何だこれ!) 完全に頭の中はパニックで真っ白だ。 吐息すら感じそうな距離に思わずぎゅっと目を瞑る。 視界の情報が遮断された。 手首に感じる御波の熱だけに意識が集中していく。 「…………っ」 手首を捉えていた御波の手が腕に這う。 触れた部分から火がついたように熱くなる。 肘、二の腕、肩。 ゆっくり優しく、それでも確実に。 こっそり吸った息が震えた。 両肩を掴んだ手が止まる。 「ねぇ、ほんとに大丈夫…?」 聞くなよそれを! 大丈夫だからさっさとしろよ!! なんて、叫べないから 小刻みに頷く。 俺の緊張が伝染したのかな。 御波の手にぐっと力が入る。 肩甲骨を大きな手が滑る。 そして、 「失礼します。」 強張った俺の身体は、すっぽり御波の腕に収まった。 御波との距離は0。 そんなピッタリくっついたら心臓の音聞こえるじゃん。 「あはは、心臓やばいね。」 ほら見ろ。 でもそれは俺だけじゃなかった。 密着して分かる、御波の心音とか匂いとか吐息とか 全部全部、直に伝わってきて ブワッと顔に熱が集まる。 俺よりデカい御波。 抱きしめられて俺は御波の首筋に顔を埋める状態になっている。 うわうわうわなにこれ。 は、なっんだこれ。 クソ恥ずかしい。 嫉妬しましたって言った時より遥かに恥ずかしい。 御波の髪の毛が顔をくすぐる。 思わず身をよじると 俺を抱きしめる腕に力が篭った。 「鳥羽。」 「…………」 「俺、鳥羽を置いてどっか行ったりしないよ。」 「…………」 「お前の声聞きたい。いっぱい話したいんだ。」 そっと腕が解かれる。 御波と至近距離で目が合う。 俺の好きな優しい笑顔が視界いっぱいに広がった。 「ね?だからさ、無言で俺を置いてかないでよ。」 あぁもう。 泣いてしまいたい。 御波のこと、好きで泣きたい。

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