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うーん、めんどくせぇ。 御波といると、感情の波?ベクトル?が大きく変わる。 さっきもそう。 くだらない事で嫉妬して。 これみよがしに教室を出て、御波の注意を引こうとして。 恋愛脳の女かよ。 言ってしまえば、まともな友だちもハグをしたのも手を握ったのも好きだと思ったのも御波が初めてだ。 でも。 それがもし"御波"じゃなかったら? 御波じゃない他の誰かが、俺に寄り添ってくれてたら? 俺に初めての感情をもたらしてくれた人を特別視してないか? これは感情の刷り込みで………… ってああ、もうこれだよ。 すぐこれ。 めんどくさ。 イライラしてきた。 煙草でも吸おう。 最近、御波が近くにいたから控えてたけど 今までそれなりの量を吸っていたから それも原因で苛ついてるのかもしれない。 カバンに入っている筈。 そう思って、ローファーをつっかけながらゴソゴソとカバンの中を引っ掻き回す。 (お、あったあった。) 潰れて包装のビニールがくちゃっとなっている。 中を覗けばまだ4本残ってた。 十分だ。 公園にでも寄って一服しよう。 そう思って箱を軽く振り、歩きだそうとした。 が、 「待って。」 息をきらして、俺の手を掴むのは御波。 怒ったように眉根を寄せている。 タバコを持つ俺の手に視線を落としてため息をついた。 「たばこ、最近吸ってなかったじゃん。」 ああ、そうだ。 抱きしめられて浮ついて、今までのいらいらが嘘みたいに消えてたからな。 ていうかこいつなんでここに。 クラスの奴らほっといていいのかよ。 そう思った矢先。 「萌志!」 短いスカートを揺らし、走ってきたのは副委員長の女。 「もーいきなり何も言わずに出てかないでよ!」 「あ、アコちゃんごめん」と女の方を向く御波。 でも俺の腕をがっちり掴んで離さない。 てか名前。 俺の至近距離でよびあうな。 勝手に惨めになって、腕を振りほどこうとする。 すると、御波の手にぐっと力が入った。 少し痛い。 「なに、どんくらいかかるの?」 「もーちょっと!ちゃんと戻ってくるから先進めといて!」 女がため息をついて俺をちらっと見る。 んだよ。 こっち見んな。 俺は御波の手を引き剥がそうと指を掴んだり、引っ掻いたりしてみたけどびくともしない。 (こんの馬鹿力…!離せよ!) パタパタと女が去っていく。 若干御波の手の力が緩む。 今だ!と手を引っこ抜こうとしたら、逆に引き寄せられた。 ぽすんと御波の胸元にぶつかる。 おいおい勘弁してくれ。 一気に心臓が跳ね上がる。 「鳥羽の嘘つき。」 え、何が。 「無言でおいてかないでって俺言ったのに。」 すり、と頭に御波の頬がのせられるのを感じた。 (あ………) そうだ。 会話を避けるクセがまだ消えなくてどうしても心の中に言葉をとどめてしまう。 人一倍会話が必要なくせに。 「また、言うのには照れくさいこと?」 見上げれば何だか嬉しそうな御波が目に映る。 くそ。 こいつ段々俺の単純な行動と心情を理解し始めてるんじゃねーのか。 なら察してくれ。 言わせんな。 「言って。俺、分かんないよ。」 うそつくなバーカ! 御波を軽く睨んでからスマホを取り出す。 もう強気で行ってやる。 俺がいつまでもお前に引っ張られてると思うなよ。 『俺も萌志って呼ぶからな。』 呼んでもいい?なんて聞くかよ。 御波はぱちくりと目を瞬かせてから、ニヤニヤ顔が広がっていく。 畜生、ニヤニヤすんな。 すると、くつくつと笑いながら 「どーぞ、暁。」 へ。 「え、何その顔。俺だけ苗字呼びとかそれはなくない?」 さも当たり前と言うように小首を傾げる。 じわじわと顔に熱が灯る。 やめろーーーーーーーー…… そういうのやめてくれ……。 俺が強気で行ったのにサラリと返り討ち。 煙草の箱をぐしゃりと握りしめる。 俺って単純。 もう吸う気が失せてしまった。

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