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54 烏丸ーからすまー
「俺、もしかしてやらかした?」
烏丸が俺に近づいてくる。
違うと、首を振りながらも暁が出ていった扉から目が離せない。
そんな俺を見て、烏丸は呆れたようにため息をつく。
「……お前好きでしょ、鳥羽のこと。」
……え。
その一言に一気に頭が冴えて、烏丸を見る。
烏丸が「図星だ?」と言いながらカバンを下ろす。
何も言えず、口をパクパクさせる俺。
さらに烏丸は言葉をつづけた。
「お前分かりやすいもん。誰かに翻弄されているくらいは誰にだって察しがつく。」
烏丸に気づかれた。
じゃあ、渡貫も?
俺の心中を読んだのか、顔の前で烏丸が手を振る。
「あ、大丈夫。鳥羽が好きなんだろうなってのは、俺しか知らない。」
「…………なん、で……。」
間の抜けた情けない声が出る。
「お前らが仲良く追いかけっこしてるとこ見ちゃったしな。次の日、お前すこぶるご機嫌だったし。こりゃ、なんかあるなと。」
み、見られてた。
そりゃそうだ。誰もいなかったなんてそんなわけがない。
たらり、と冷や汗が流れる。
「俺そういうとこ聡いから。で、もっかい聞くけど、鳥羽が好きなの?」
これで、そうですって言ったらどうなる?
引かれる?
気持ち悪がられる?
どうしよう。
ぐるぐると回る思考に
『お兄ちゃんの気持ちはお兄ちゃんのものでしょ?』
真昼の声が聞こえた気がした。
……そうだよ。
俺の気持ちを俺がここまで押し殺して誤魔化してどうする。
なんか文句あるのかって突っぱねられるくらい、本当は堂々としたい。
「……そうだよ。」
烏丸の目を見て、言った。
「萌志は、男が好きなの?」
「……違う。でも、暁が好き。男だから好きなんじゃない。好きになったのが暁で、暁がたまたま男だっただけ。俺があいつを好きなのに性別なんて関係ない。………気づいたら好き、だった。」
俺の言葉を黙って聞いていた、烏丸の目が細められる。
ごくりと生唾を飲み込んだ。
(い、言ってしまった……。)
ドキドキと烏丸の反応を待つ。
「なるほど、合格。」
「……え。」
「俺、そういう考え方好きよ。」
「え……待って。ひ、引かないの?」
「引くって、なんで?」
「なんでって……。」
「人を好きになるのに性別なんて関係ないんでしょ?俺はゲイだけど、それを悲観したことなんてないし。他人のくせに人の恋愛につべこべ言うやつらの方が頭がおかしいって思ってるたちだから。」
「あ、そうなんだ……ん??」
「え?」
今サラッとすごいことをカミングアウトされたような。
ぽかんとしている俺を見て烏丸が「あぁ、」と納得したようにうなずいて
「大丈夫、俺が好きなのは萌志じゃないよ。」
「いやいや、そこじゃなくて。なんで俺にそんな大事なこと…」
「萌志が向き合ってくれたのに俺が黙ってられないでしょ。隠すつもりはないけど敢えて言おうとも思ってない。でも萌志なら言ってもいいかなって。」
烏丸の目元が優しく笑う。
張り詰めた緊張が緩んでいく。
心強い味方がこんな近くにいたなんて。
あっけらかんとした烏丸に後光が見える。
「お前ってホントいい奴……。」
「そうだろ?常に俺への崇高心を胸に日々励みたまえ。」
ドヤる烏丸に笑いがこみ上げる。
吹き出した俺を見て、「やっと笑ったな」と烏丸が顔を綻ばせる。
心が軽くなった。
溢れそうでぐらついていた器に烏丸が手を添えてくれたんだ。
「ありがとう。」
自然と口をついて言葉が出る。
烏丸は照れ臭そうに首を振った。
心強い味方ができた。
暁に気持ちを伝えるつもりはないけど、ちゃんとそれを汲んでくれる友達がいる。
暁に謝ろう。
ぎくしゃくしたくない。
これをこうしたらああなってしまうとか。
嫌われるとか好かれるとか。
打算的な考えはもうやめよう。
理由をつけて隣にいる関係なんてやめてしまおう。
ただ穏やかに、自然に君の傍にいたいんだ。
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