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55 吐露ーとろー
(…いた。)
屋上の扉を開ければ、フェンスにもたれかかる暁を見つけた。
その口にくわえられているのは、煙草。
紫煙をくゆらせて暁が此方を見た。
その全身から感じるのは困惑と警戒。
出会ったときみたいだ。
5か月しかたってないのにまるで何年も前のように感じてしまう。
ゆっくりと息を吸う。
烏丸が言うには。
『いいか、萌志。気持ちを伝えるつもりがないなら、今回のいざこざを治めるには、よりナチュラルに嘘をつくことが大事。……あ?鳥羽に嘘をつきたくない?ばっかオメー、世の中には優しい嘘ってのがあんだよ!!!』
だそうで。
優しい嘘ってこういう時つくもんじゃないと思うんだけど。
俺はなるべく人に嘘なんかつきたくない。
でも変に正直に言って、結果的に暁を困らせるのならここは軽い嘘をつくしかない。
そりゃちゃんと本音も混ぜつつ。
笑っちゃうよな。
あの雨の日、嘘ついて誤魔化そうとした暁に正直に言わせたくせに。
なのに、今度は俺が嘘ついて誤魔化そうとしている。
覚悟を決めて恐る恐る口を開く。
「……暁、ごめん昨日。今更かもしれないけど誤解を解きに来たから、聞いてほしい……。」
ちらりと彼を窺うと、吸っていた煙草を携帯灰皿にねじ込んでいた。
そしてゆっくり俺の方に向かってくる。
もしかしたら通り過ぎられるんじゃないかと思ったけど。
彼は2メートル程の間を開けて立ち止まった。
その微妙な距離が俺たちの今の状態だと思うと胸が痛い。
つい最近まで1センチの隙間もないくらい近かったのに。
でもこれは全部俺のせいだ。
視線は依然と俺に向いたまま。
このまっすぐな目にうまく嘘をつけるのか、とたんに自信がなくなる。
だめだ、弱気になってちゃ。
もう絶対目を逸らさない。
暁と視線を合わせる。
朝なのに夜空のように黒い瞳。
その視線はひどく無機質なものに感じた。
「やめてしまいたいって言ったのは、リハビリのことじゃない。それだけはわかってほしい。暁が人に触れるのが苦手なのに、俺に触れられるようになってくれたのは凄く、凄く嬉しかった。」
1つ、息をついて言葉をゆっくり紡ぐ。
暁は何を考えているのかわからない表情で俺を見つめている。
「やめてしまいたいのは、俺が……うじうじ、悩むこと。……暁のこともっと知りたいって思うけど、どこまで踏み込んでいいのか分からない。暁のペースを乱したくないのにどうしても自分の気持ちを考えてしまう、打算的な自分に嫌気がさしたんだ。」
これは本当だ。
今の自分は死ぬほど嫌い。
「踏み込んでいい領域は俺が決めることじゃない。もしもこれを聞いて、不快に思ったならごめん。誤解を与えてしまったことも。暁に嫌われたくなかったのに、俺、凄い自分勝手なやつなんだ。嫌われたくなくて、黙り込んでしまった。おいていかないって自分で宣言しておいて、逃げちゃってごめん。……文化祭、一緒にいたい。でも、俺のことホント無理って思ったら……そしたら…遠慮しないで切ってほしい…。」
……あーあ、言ってしまった。
切ってほしいなんて嘘。
俺のばか。
最後らへんは語尾が震えてしまった。
だっさ。
暁の前ではええかっこしいだったくせに。
俺を見つめていた暁がスマホを取り出す。
あ、くる。
ざわざわと胸が騒ぐ。
握りしめた手は凄く冷たくなっている。
ピロン
通知音にびくりと体震える。
メッセージを見るのを促すように暁が俺を見た。
小さく何度か頷きながらスラックスのポケットから端末を取り出す。
それがいつもよりずっしり感じる。
ロックを解除する指先が震えた。
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