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胃がギュっとする。 往生際悪いってわかっているけど、本当に嫌われたくないんだな。 自分にほとほと呆れてしまう。 開いたメッセージに恐る恐る目を通す。 『そっち、行っていい?』 ……ソッチ、イッテイイ? 画面を見つめて止まる。 え、と思ってスマホから顔を上げる前に肩に、トン…と小さな衝撃が走る。 じわりと徐々に届く熱にしばらく呆気にとられた。 肩に乗せられた頭。 それが暁のだって理解するのに数秒の時間を要した。 「あ、あかつ…」 言いかけた俺を暁が遮るようにスマホの画面を見せる。 『萌志は自分勝手なやつじゃない。』 『俺が萌志でも同じことを思う。』 『文化祭、俺も一緒にいたい。』 『約束、なかったことになるかもって怖かった。』 『俺がお前を嫌いになることなんてない。』 手元からのけたたましい通知音が聞こえなくなるぐらい胸がいっぱいになる。 肩に頬をつけたまま暁は照れ臭そうに視線を逸らした。 耳の先が少し赤い。 俺がそれをじっと見つめていると、グイグイと顎をしたから押される。 頭もげそう……。 でも嬉しい。← (か、かわいい……。) キュンキュンする胸に手を当てて感動に浸る。 それと同時に抱きしめたくなる欲求を必死で抑える。 (あぁ――――――2、3、5、7、11、13、17、19、23、29、31……。) だめだ。素数数えるくらいじゃ気が紛れない。 かわいいやら、安心したやらで足がガクガクする。 とりあえず、これで仲直り?かな? 気持ちが伝えられないより、暁と離れるほうがはるかに心に負荷がかかるってことを 再確認した。 じっともたれかかったまま動かない暁の顔を見ようと、首をかしげて覗き込む。 「………。」 「………。」 ……思ったより近かった。 2人して固まる。 目に映るのは暁の見開かれた瞳。 瞳に睫毛が映りこんでる。 それを綺麗だなぁなんて呑気に考えてしまった。 煙草の苦い匂いが仄かに香る。 ごきゅっと喉が鳴った。 「ご、ごめん……。」 不自然なぐらい間が開いてから俺は謝って顔を上げる。 暁が俺からササっと遠くに離れてしまう。 あぁ――――…俺のバカぁ……。 せっかくあんな近くに来たのに。 もうちょっと我慢してたら、まだ今もくっついてくれていたのに。 数秒前の自分を殴りたい。 ぐるぐると己の愚行を悔いていたら、暁がちらりと振り返る。 思案顔で俺をじっと見つめていたと思えば、ポチポチとスマホをいじる。 通知音が聞こえて、慌ててメッセージを開く。 『おいで。』 ぱっと顔を上げると、いつかの俺みたいに腕を広げる彼。 息を呑む。 恥ずかしげに背けられた顔をぽかんと眺める。 暑い日差しがその黒髪を照らす。 胸が蒸発しそうなくらい熱くなる。 (これは……夢か。え、どこからが夢?この暁は本物?幻?蜃気楼?) 状況がいまいち飲み込めていないのに、足は彼のもとに向かってしまう。 物凄い引力で引っ張られているみたいに。 自然と小走りになっていく。 (好きだよ、暁。大好き。) 心の中でそう呟いて、縋りつくように彼の華奢の体に抱き着いた。 俺より少しだけ低いその肩口に顔をうずめる。 暁の腕が俺の首にそっと回される。 後頭部をポンポンとあやすように撫でられた。 その優しい手つきにまた『好き』が追加される。 ああ、よかった。 これで元通り。 またつかず離れずの関係に戻れたんだ。

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