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57 開錠ーかいじょうー
萌志が本当に泣きそうな顔をした。
俺から目線を外さないで、必死に言葉を紡ぐ彼。
消え入りそうなほど、弱々しい掠れ声が耳に届く。
俺が思っていたより、萌志は本当に普通の高校生だった。
そうだよな、同い年だもんな。
俺が悩むのと同じように萌志だって悩むし
隠したくなる胸の内だってある。
同じ人間なのに、そんなことをまるで感じさせないように振舞ってくれようとした萌志。
それに甘えていた俺。
何で気づいてあげれなかったんだろう。
完璧に見えていた彼は、その優しい笑顔の裏側で無理をしていた。
垣間見えたその片鱗を勝手に誤解して。
自分勝手なのは俺だ。
限界で口から出た『やめてしまいたい』だったんだ。
萌志がこんな俺のことを知りたいって思ってくれる。
それでもう十分じゃん。
抱きしめた萌志の体は前より幼く感じた。
肩に埋められた彼の頭を撫でる。
俺の腕の中にいる萌志。
トラウマの根源については必ず話すから。
まだ俺の中で覚悟ができていないだけなんだ。
お前に打ち明けるにはまだ俺自身が強くなれていない。
決して萌志が頼りないとかそんなことはない。
すり、と萌志の頭に頬を寄せた。
こんなすれ違い、もうしたくない。
が。
新たな問題が俺の前に立ち下がる。
―――――それは、夕星祭。
そう、俺が性別を超えて萌志のことが好きになってしまうのだから
当たり前のように女は萌志が好きになるのだ。
恐ろしくモテるくせに、鈍感なこいつ。
俺は結構わかりやすいほうだと思うけど、気づかれずに済んでるのはこの鈍感さのおかげ。
そんなモテ男と、ほかの女子たちを差し置いて文化祭を一緒に回る俺はどうすればいいんだろう。
別の意味でそれぞれ注目を集める、俺と萌志。
きっとみんな「どうしてあいつが」って思うんだろうな。
俺も「どうして俺と」って思う。
でもこの「萌志と文化祭を回れる権」を手放す気はさらさらない。
これは俺自身で何とかしないと。
文化祭まで1か月を切った。
極力浮かないように且つ違和感なく萌志の横に立つ。
俺が頼んで教室では話しかけないようにしてもらっていたけど、裏目に出た。
萌志は根拠もなく「大丈夫だよ」ってふにゃ顔で言いそうだけど。
だが周りと俺は大丈夫じゃねぇ。
1人、寮のベッドでため息をつく。
俺が当たり前にあいつの横に並ぶには、差がありすぎる。
烏丸や渡貫を見れば、いつだって自分が惨めになる。
萌志に降りてきてもらうわけにはいかないし、そんなことは許さない。
だから俺が、この差を縮めていかないと。
どうやって?
まずは見た目か?
ピアスがついた耳を触る。
不登校になったときに自分であけたピアス。
塞がったやつもあるけど、両耳合わせて5か所。
あとは?
制服の着方?
煙草?
四六時中耳についてるイヤホンか?
前は喧嘩三昧で生傷が絶えなかったけど、リハビリを始めてその回数はほぼ無に等しい。
いきなり変えるのはなんか抵抗があるから。
そう思って、つけているピアスを3個にしてみる。
至って厳つさは減っていないけど、まぁ最初はこれくらいで許してほしい。
萌志に手を引っ張られて出てきた日向。
でもまだ影と隣り合わせ。
戻るのが嫌なら変わらないと。
変わりたいなら自分で動かないと。
いつまでも萌志の手が俺の手を引っ張ってくれるわけじゃない。
無条件で差し伸べられるその手に甘えてちゃいけないんだ。
掌のピアスを握りしめた。
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