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『あ――――かつきごめえええええええん!!!!俺は最低でええええす!!!』
『いや、カラオケに来たんなら歌えよ。』
マイク越しの会話が狭いボックスに響く。
烏丸の冷静なツッコミが逆に俺の罪悪感を掻き立てる。
『もう好きって言って、気持ち悪って振られたほうが楽なんかなー……。』
『おいおい、傍に入れるのが幸せなんじゃねーのか。』
『そうだけど。でもさ、振られてしまえばこうやって罪悪感を感じながら横に立つこともなくなるじゃん?』
『ん―――まぁ、一理あるな。』
『あ————好きなんです鳥羽暁くん————!!!』
『ここで告れとは言ってねーだろwww』
ひゃひゃひゃと変な笑い声をあげながら烏丸がソファに寝そべる。
そして徐に俺にマイクを向ける。
いや、俺もう持ってるんだけど。
『御波くんに聞きたい!ドキドキ☆質問コーナー!!!』
『え、なに。てか真顔でその声色やめろってww』
『いや、誰にも言えずに抱えてきた萌志の恋愛事情を赤裸々にしようかと。』
『はぁ?!俺が単に恥ずかしいだけのやつじゃん!!』
『いいんだよ。ほら行くぞ。』
何がいいんだか。
俺のペースは全くお構いなしで烏丸はグイグイ来る。
『はい、1つ目!御波くんが鳥羽くんを好きになったきっかけは???』
『わかりません。』
『んだよ、誤魔化すなって。』
『いや、まじで。最初は普通に話してみたいなーって思ってただけで。
それがだんだん、かわいいな~一緒にいたいな~に変わってさ。』
『ほうほう。じわじわ恋愛型ね。ま、そんな感じだよね萌志。』
烏丸はうんうんと一人で納得したようにうなずいて、また考えるような表情をする。
じわじわ恋愛型って何。
『う――ん、じゃあ2つ目!仲良くなったきっかけは??』
『しつこく話しかけていたら、連絡先を交換できました!』
『いつからしつこく話しかけていたんですか?』
『岩センに言われて屋上に行った日からです!』
『え、めっちゃ前じゃん。そんな昔から鳥羽くんに興味あったの??』
烏丸が驚いたように声音を変える。
そうなんだよな。
結構長いんだよな。好きって自覚したのは夏前だけど。
きっと、入学して初めて暁を見た時から何となく気になってはいたんだよな。
話せる機会がやっと来て、「ナイス岩セン!」ってちょっと喜んだんだっけ。
『ずっと話してみたかったよ。』
『萌志の前だとあいつどんな感じなの?』
『え———?んん……口数は相変わらず少なくて、でも素直でかわいいよ。』
口数って言っても文字だけど。
照れたら眉間にしわが寄って、俺が笑ったらちょっと顔が緩んで。
抱きしめたら細くて壊れそうで、いつも遠くを見てる。
薄暗い過去を隠して一人で怯えてる。
守りたいし、支えたい。
「ほんとに好きなんだな。鳥羽のこと。」
烏丸がテーブルにマイクを置いて俺を見る。
「え?」
「顔見りゃ分かんだよ。ただ単に好きなんじゃなくて、なんかこう……」
とんとんと額を指さす仕草に、思わず自分の顔を触る。
自分では分からない何かがあるんだろう。
烏丸が見た俺の表情ってどんなのなんだろう。
「俺、どんな顔してんの?」
「ん―――……少なくとも俺とかには向けたことない顔だな。」
言葉で言い表すには少し難しいらしい。
烏丸はタッチパネルでフード一覧を見始めた。
こいつ…散々バーガーやらポテトやら食っといてまだ足りてないのかよ。
「……鳥羽は気づくべきだね。自分のこと、こんなイケメンが好きって思ってくれてるのに。」
「男の俺に言われてもって感じだろ。暁に拒否されんのが一番怖い。」
「じゃ———隠さねーとな。
理性が揺らぐのが嫌ならそれを超えるぐらいの力で押さえつけねーと。」
どこか自分に言い聞かせるような言い方をした烏丸。
俺にはその圧がまだ足りていないんだろう。
好きだって言いたい。
俺の気持ちに気づいてほしい。
でも、引かれるのが怖い。
離れたくない。
ずっと横にいてほしい。
傍にいると触れたくなる。
友だち同士のスキンシップだ、って自分に言い聞かせてギリギリのところまで踏み込んでしまう。
そんな気持ちのせめぎあい。
歌う気分になれなくて、マイクのスイッチを切る。
暁が声を出せるようになったら、告げよう。
そもそも、声を出す練習をし始めてから距離が近くなったんだ。
あーあ、ハグしてみようなんて言い出した数か月前の俺が憎い。
最近の暁は、前より人込みを嫌がらなくなったし。
文化祭の人込みも、人を避けつつもギブアップしなかった。
克服も近いんじゃないのかな。
でもそれはいつ?
暁と否が応でも引き離されるとき、黙って見送れる自信がない。
それじゃ、言い逃げになるかな。
「……卒業式の日に告るって、アリ?」
俺の問いにタッチパネルから烏丸は顔を上げる。
「……なしだとは、言い切れん。が、あと1年以上我慢できんの?」
「するしかないでしょ……。」
「ん———我慢のし過ぎはよくない、と俺は思う。」
「なんで?」
「……こっから先はちょっと俺の考えも入るから、ツッコミはな無しで聞いてほしいんだけど。」
ゴトリと機械を置いて、烏丸は1回深呼吸をする。
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