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70 奈落ーならくー

文化祭が終わったと思えば、体育祭が来る。 何で1年の後半にイベントを詰め込んでくるのか。 出場種目を決めてしまえば、当日まであっという間だ。 夕星祭の時の気まずさは薄れたけど。 体育祭で弓道部の種目があるからと、萌志との放課後の時間はお預けとなった。 部活の時間も前倒しになって、忙しそうだ。 高校2年生の合同種目は騎馬戦。 もちろん俺は出るつもりはない。 というか、萌志の出る種目だけ見れれば、それでいいかなって。 プログラムの時間を教えてもらって。 その時間帯に合わせて、学校に来ればいい。 生徒の中に交わらないでも、金網の向こうから見れたらそれでいい。 窓からグラウンドを見下ろす。 トラックにはリレーのコース。 白い線が綺麗にひかれていた。 視線でたどるその先。 放課後は、リレーの練習や応援団でグラウンドの中心に人がたくさんいる。 団対抗リレーとクラス対抗リレー。 それには萌志と渡貫が出るらしい。 リレーなんて、花形じゃないか。 そんなの出たら、萌志のこと好きになる奴が増えてしまう。 萌志に弱点なんてあるのか。 あ、耳以外で。 勉強も部活も交友関係も。 俺から見れば完璧に見える。 俺のほかにどれくらいあいつのこと好きなやつがいるんだろう。 やっぱりいっぱい、いるのかな。 萌志に抱きしめられたことがある奴はどれくらい? 笑って「好きだよ」って言ってもらえた奴は? (いいよな、そういうやつらは。) 密かにに恋をしているけど。 というか、もう心の中でどれだけ思いを伝えたか分からない。 こんな時、声が出なくてよかったって思う。 じゃなかったら、きっと俺が口を滑らせるタイミングなんていっぱいあった。 ほかの奴にとられたくないな。 俺だけ見てくれねーかな。 なんてな。 日に日に女々しくなる自分に溜息が出る。 声が出たら萌志に言いたいことを頭に思い浮かべるけど。 その中に、好きって入れていいのか。 お前のこと好きだって。 その時はもう嫌われたっていい。 男だからとか。 女だからとか。 性別で、言葉が制限されるなんて納得がいかない。 声が出たら。 そうしたら、萌志から離れよう。 いつまでも俺に付き合わせるなんて申し訳ないもんな。 そう思っていたのに。 翌日、そんな俺の決意も何もかもをぶち壊す出来事が起きた。

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