72 / 138
72 光芒ーこうぼうー
「日下部さん、だっけ。」
不意に俺と彼女の間に人影が割り込む。
視界に広がる広い背中。
(あ……。)
視線を上げるとふわふわと揺れる襟足が見えた。
きた。
来てくれた。
萌志。
金縛りにあったように強張っていた身体が自由になる。
いつの間にか、耳にまとわりついていた声も、体を這う黒い手も消えていた。
安堵で座り込みそうになる。
それを必死に足を踏ん張って耐えた。
「?はい。」
キョトンと首をかしげる彼女に萌志は言葉を続ける。
「俺、このクラスの委員長の御波っていうんだけど、」
「あ、うん!よろしくお願いします、日下部です。」
「よろしく。でね、校内案内をそこの永尾亜瑚さんにしてもらうんだけど…」
指をさされた永尾本人は「え?!」って顔をしたけど、日下部が振り返った瞬間にっこり笑って手を振る。
「で、俺は彼と一緒に先生の所に行かないとだから。」
そう言って萌志は俺の肩にがしっと腕をまわす。
ぽかんとした日下部を置いて、萌志は俺の手を引き、教室から出た。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!