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萌志が掴んだところから徐々に緊張が解けていく。 俺にとっての魔法の手。 少し大きくて骨ばった手は相変わらず俺の腕を掴んだままだ。 だけど、日下部はたぶん俺の過去を知っている。 小学校で同じ学年なら、きっと。 ぞわりと悪寒が背筋を走る。 怖い。 また、繰り返されるかもしれない。 もしあの女が俺の過去を周りに言いふらしたりしたら。 目の前の背中を見つめる。 萌志に知られるかもしれない。 俺が汚いって。 汚れているんだ、何もかも。 嫌だ。それだけは。 綺麗な萌志に俺が汚いってバレる。 しかも他人に言いふらされるなんて。 それだけは。 それだけは絶対に阻止しないと。 ふと、掴まれている腕に視線を落とす。 「……っ」 じわりと萌志の手に黒い染みが滲んだような錯覚を起こす。 (あぁ……だめ、だめだ。汚れてしまう…。) 腕を振り払った。 手首から温もりが消える。 突然離れた腕に、萌志が戸惑いの表情を浮かべながら俺を振り返る。 「…?暁……?」 人通りのない静まった廊下にさらに重たい沈黙が落ちる。 俺は腕を抱きしめるように胸元に引き寄せた。 宙を彷徨う萌志の掌からは染みは見当たらない。 よかった。 (まだ、綺麗。) 何で今まで気づかなかったんだろう。 散々萌志に俺の体を触らせてしまった。 そのことに幸せすら感じていた。 でも、もうだめだ。 萌志にバレる。 そのリスクが今日、あの女が来たことで高まってしまった。 揺れる瞳と視線を合わせるのが苦しい。 どうしたの、と首をかしげる萌志から後ずさる。 「暁?どうしたの、さっきから。調子が悪いの?」 一歩、俺の方に足を踏み出す萌志。 俺は首を横に何度も降ってそれを制す。 足を止めた萌志が、訝しげに俺を見つめる。 このことは、まだ萌志に言えない。 だって、今知られたら俺はまた一人になってしまう。 萌志とまだいたい。 一緒にいたい。 声だってまだ出ていない。 萌志という支えを失くしたら、今の俺はきっともう一人で立っていられない。 もう大丈夫、って言える自信がついていないんだ。 バレるのと自分で打ち明けるのは、 内容が同じでも全然違う。 床に落としていた視線を萌志に向ける。 視線が合ったことで萌志の表情が和らいだ。 「暁?」 ……萌志。 「大丈夫?」 ごめん、俺… 「顔色が、あんまり良くないけど…。」 あの日からずっと、まだお前に嘘をつき続けている。

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